本書のテーマは、未婚化・晩婚化の理由を社会学的に明らかにすることで、以前の結婚をとりまく状況とは全く違ってきているのを説明しようとするものである。
現在の結婚したいのに未婚のままである男女の親たちや上の世代の人びとは、自分たちが結婚した当時の感覚でいる場合があり、今の若者は結婚しようと思えばできるのになかなかしない、と思っているかもしれない。しかし、それでは、現在の状況を正確には理解できないだろう。
著者らは、就職活動を「就活」と呼んで精力的に活動しなければ就職できない現代の若者の就職事情と同様の要素を、現在の結婚事情に見出し、結婚するためにも積極的な結婚活動をしなければならない事態が起きていること、そのための活動を「婚活」と呼んでいる。
恋愛や結婚を研究対象としてきた社会学者の山田昌弘氏はこれまでの研究や調査から理論的に説明し、少子化の問題を取材してきた「少子化ジャーナリスト」の白河桃子氏は「婚活」しながらもなかなか成婚にいたっていない未婚者へのインタビューから実態を描き出す。
本書の特徴は、現在の未婚者の未婚化は決して結婚したくないわけではないことを、就職をアナロジーとして、ほぼ自動的に就職や結婚にいたることができた従来の社会システムがすでに失われていることを説明しようとすることだと言えよう。
女性側の結婚できない理由と、男性側のそれが挙げられているが、それを以下に挙げておく。
女性の側の理由
その1 周りにいい男がいない
その2 いいと思った人にはもう相手がいる
その3 恋人はいるが結婚にふみきれない
男性側の理由
その1 ムリ目の女性にばかり声をかけ、断られてしまう
その2 声がかけられない
その3 恋人はいるが結婚にふみきれない
少し前までは、女性が外見を磨く、男性は外見などどうでもよい、となっていたが、現在では、女性は自分磨きはもうそれ以上は必要なく、男性の方にこそ、外見も含めた自分磨きが必要となってきている、ということだ。
女性の場合は、必ずしも魅力格差が問題ではなく、「運」であるというのが山田氏の主張。男性の、女性に対する外見の好みはそんなに偏りがないので(女性のいろいろな外見に対して、男性たちはそれぞれの好みがそれなりに分散している)、外見のために全く男性に相手にされない女性というのはあまりいない。むしろ、外見も含めて魅力を感じてくれる男性と多く出会うことで、その中から自分が好きになれそうな男性を見つけることが「婚活」戦略だという。
男性の場合には、女性が求める魅力が「経済力」と「コミュニケーション能力」なので、それらをつける努力をすること。コミュニケーション能力は、結局、女性とつきあう中でしか培っていけないので、オン・ザ・ジョブ・トレーニングをするしかないのだと。
出会いがないと嘆いているよりも、友人・知人ネットワークからいろいろな人と出会う機会を増やしてみるとか、そういうネットワークに恵まれない場合は良心的な結婚情報サービスを利用してみるとか、いろいろ試してみればいいのかもしれない。「結婚したいので誰か適当な人を紹介してください」というのは、従来の感覚をひきずっていると、やはり、ちょっとみっともないことのように感じるのかもしれないが、もう、昔のように、黙って待っていても誰かが半ば強引に世話を焼いてくれたりすることはなくなっているのである。自分から意思を表明して、その気があることをアピールしなければ、「交際する気がない人」「結婚するつもりのない人」と見なされ、本人によほど周囲に訴える魅力がない限り、相手にされなくなって、ひとり静かな老後を迎える見通し一直線になるのだろう。
本書では、シャイな日本人男性と、結婚観ではいまだに男性のほうからプロポーズしてくれるのを待つ日本人女性がカップリングしない理由がかなりリアルにわかるようになっている。世界では、まだ日本人女性は人気があるらしく、このままでは、外国人男性と結婚してしまうよ、と警鐘(?)を鳴らしている。
恋愛も結婚も子どもをもつことも、どれも個人の選択だと言える世の中になったこと自体を否定することはないだろう。著者らもそういう意図はないと思う。しかし、現状は選択の結果としてのものではなく、多くの未婚者は結婚したいのにできていない、のだ。子どももほしいのに、結婚してから、と思い、結婚できないから、子どもも生まれてきていないのだ。
現在、国を挙げての少子化対策として、子育て支援をしているけれども、本書にもあるように、少子化の原因はまずは晩婚化・未婚化なのだから(結婚すれば子をもとうとするのだから)、結婚したい人たちが結婚できるようなシステムが必要なのかもしれない。強制にならない形の。
すでに結婚している上の世代の方々も、未婚者の現状がご自分たちが就職できたり結婚できた以前の状況とは全く違ってることを、再度認識する必要があるだろう。以前は、就職の口をきいてもらえる人間関係があったり、年頃になると結婚の世話を焼きたがる親戚や近所のおばさんがいたりしたものだろうが、もう、とっくにそんなシステムがないのだ。親同士が見合いという新聞記事を見て、とうとうここまで来たか、と思ったが、とても笑ったりできることではないと思ったものだ。
ワーク・ライフ・バランスは、大切だし推進してほしいけど、結婚できない男女の問題は、時間ができたからといって解決するような問題ではないと思う。
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