『町立図書館をつくった! 島根県斐川町での実践から』
この書籍は、島根県にある町、斐川町での図書館づくりの様子を詳しく紹介しているものである。
すばらしいのは、計画段階からの徹底した住民参加が実践なされている点。
このように、住民サービスをあまり考慮にいれない建築家のひとりよがりの作品としての図書館や入札方式による図書館はやめようということで、「斐川町立図書館建設基本計画」は、案を選ぶのではない、共につくってくれる人を選ぶ設計者選定方式であるプロポーザル方式をとっている。(本書68頁)
設計者の選定には、4種類ある。入札(お金で選ぶ)、コンペ(図面で選ぶ、原案を大きく変えることはできない)、プロポーザル(人を選ぶ)、特命(特定の人を選ぶ)などだ。
日本の図書館づくりで3項目すべてが揃ったのは初めてだという。その3項目とは、
1.公募プロポーザル(1次・2次の2段階選考)
2.選定委員は町長・準備室長・町民・図書館や建築の専門家
3.全案の公開と、1点毎の講評の公開
本書は、図書館建設計画から竣工、開館後の様子にいたるまで、詳細に記述されている。著者が長年図書館にかかわってきた人であるだけあって、図書館が建物さえ建てばできあがるのではなく、蔵書を選定し続ける過程や資料を提供する職員の身分や体制についても言及されているところは、さすがだ。
ほかにも、新生児への育児支援も兼ねたブックスタート事業(保健福祉の係と連携)、学校図書館との連携、高齢者へのサービスなど、参考になるサービスが試みられている。
図書館業界では、「図書館は成長する有機体である」というフレーズは有名だが、図書館教育が不十分で一般にも図書館への意識の低い日本において、住民参加をとおして図書館教育を行っている(と私は解釈した)。このことで、将来への長期的視点に立った図書館活動を続けていくための、不可欠な条件である利用者を育て続けていくことが、達成され続けていることには、感動を覚えずにはいられない。
開館して1年半経過した時点でのふりかえりも、いろいろ考えさせられる。計画段階で十分に考慮したつもりでも、実際の業務をはじめてみて初めて気がつくこともあるのだ。それらを、ひとつひとつ点検し改善すべき案を考えてみることは、重要なことであるがどこでも実践されているわけではない。
本書を通して、図書館にとって一番大切なのは、ひと、なのだと改めて思う。どんなにいい建物、機能的なシステム、魅力的なコレクションを備えても、それを日々管理し提供していく人間がどんなひとなのか、を抜かしては、よい図書館は維持できないと思う。
斐川町立図書館HP
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