『殴られる女たち ドメスティック・バイオレンスの実態』を読んで考えたこと。
本書の著者は、『モラル・ハラスメント』の著者でもある。イルゴエンヌは、精神科医なので、精神科的な観点から、DVから逃れられない女性や男性を分析している。女性の特性に言及すると、どうしても女性を責めがちになったり、暴力の責任を女性に押し付けていくような論調になりがちだが、そうはなっていない。おもしろいと思ったのは、一般平均よりも寛大な女性が、いろんなことを許容するために、暴力男に巻き込まれていきやすくなるという記述。「寛大すぎる態度が、限界を見失わせる」(P.207)辺りが興味深かった。
著者のマリー=フランス・イルゴイエンヌは、1978年、パリのサン・タントワーヌ大学の医学部で医学博士の学位を取得したあと、79年精神科医として開業。精神分析医、家族療法のセラピストとして活躍するいっぽう、85年からはストレス管理のセミナーを企業で開講、98年に前著(本書は続編)『モラル・ハラスメントー人を傷つけずにはいられない』がベストセラーになったあとは、セラピーを通じて被害者の心のケアをするかたわら、モラル・ハラスメントの専門家として各地で講演を行うなどしている。
まず、「モラル・ハラスメント」とは、どういう意味で使われているかを確認しておく。本書では、「精神的な暴力」、ひらたく言えば「いじめ」のことだという。ただし、「ハラスメント」の語は「小さな攻撃を絶え間なく、何度も行う」との意味で、何度も繰り返されることが必要との点に注意が要る。「モラル」に関しても、「精神的」ばかりでなく「倫理的」の意味もある。つまり、その社会で何がよいことで、何が悪いことかにかかわる問題だということだ。
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