『2020年の日本人』を読んで考えたこと。その4
P.220
しかし筆者としては、超長期にわたる不変の流れという事実は、むしろそれを変えることが適切なのかどうかを、我々日本人に問いかけているとも考えたい。もちろん、子どもを持つということは、人々にとって確保されるべき基本的な自由の一つであり、子どもを持ちたいのに、何らかの社会的な要因によってそれが困難になっているのであれば、当然、対策が講じられてしかるべきである。したがって、託児・保育体制の整備や労働環境の改善がそのために必要なのであれば、早急に対応すべきだろう。
しかし、政府がなすべきなのはそこまでだと考える。すなわち、人々に子どもを持つ自由を保証するところまでが政府のなすべきことであって、子どもを持つかどうかは人々の判断にゆだねるべきである。そしてその結果として出生率が上昇したとすれば、それを前提とした社会システムとし、出生率が変わらず、あるいは低下するのであれば、それでも人々が豊かに暮らせる社会システムとはいかなるものであるのかを考えるべきである。もし、出生率の低下が現在の年金制度や高齢者福祉を困難にするから、あるいは日本経済の持続的拡大を確保する必要があるから、出生率を向上させるべきだというのであれば、「産めよ増やせよ」を推進したかつての軍事政権と変わるところはない。
出生率と政策との関係は、歴史的経緯もあって、行政が数値目標をあげて推進するのには及び腰だった。しかし、今は数値目標を立てている。そのことが、ここで指摘されているような託児・保育体制の整備や労働環境の改善に対するものであればよいのだけれども、個人やカップルの子どもを持つ自由や権利にまで及んでいくのだとすれば、警戒しなくてはならないだろう。それにしても、長時間労働の改善なども含めて、なかなか変わらない。子どもを産む可能性の高い女性たちのボリュームゾーンも、数年すれば高齢化してしまう。そのことに対する危機感を共有しているのだろうか。
P.251
いま一つ、日本人はお金のかからない街をつくるべきだろう。日本の街は、時間を過ごすにはお金がかかり過ぎる。例えば西欧諸国では、街の中心にスクウェアがあり、人々はそこで思い思いに時を過ごしている。あるのは木陰とベンチと簡易なカフェだけであり、お金を使わず、人と触れ合い、自分の好きなことができる。日本にも広場はあるが、周りはほとんどすべて商業施設である。そこでは、お金を使わずに時を過ごすことはむずかしい。
ここの指摘にも非常に共感する。本当に、お金のかかる街は多いが、お金をかけないで時間をすごすことはむずかしい。ここに国連大学ビル前の広場にベンチが置かれたことを書いたが、こういう場所がもっとあればよいと思う。この後も、ここの前を通りがかるときに観察しているが、やはり、どのベンチにも誰かしら座っている。このベンチが置かれるようになってから、ここで夕涼みをしている人が増えたように思う。
松谷さんの指摘するように、日本人の給与は労働の割に少ないのであるから、お金を使わないですむような街をこそ、志向すべきなのではないだろうか。
それにしても、人口減少がここまで大きなインパクトをもつことで、私たちの生活もシステムも大幅に変更せざるをえなくさせるとは、衝撃的である。
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