『官製ワーキングプア』を読んで考えたこと。
本書は最近報道で取り上げられることが多くなったワーキングプアをテーマとしたものだが、その中でも、公務職場に働くワーキングプアに焦点を当てたものである。官公庁や地方自治体の役所などには、いわゆる「公務員」と私たちが思っている「安定した、収入の保障された」人だけが働いているわけではない。非常勤職員や嘱託職員や臨時職員と呼ばれる有期雇用の人もたくさんいる。そして、行政の業務委託化が進む現在では、市民が目にする受付などにいるのは多くが業務委託をされた会社に雇用されている労働者だ。業務委託は競争入札制度によって決定されるため、安く入札したところが落札することになり、その安い委託料はその会社で働く人の単価に跳ね返る。これらのしくみを著者は「官製ワーキングプア」と呼ぶ。
本書には、公務職場で働く非常勤職員の人へのインタビュー(5件)もまとめられている。有期雇用では単年度の「任用」で1年更新をずっと続けて10年以上働くこともあり、しかし、単年度の繰り返しのため「報酬」が上がることはない。また、常勤職員の「給与」という位置づけでもないため、生活できるだけの収入とはならない。常勤公務員は基本給の安い分を手当て主義で補ってきたが、有期雇用ではそういった手当もない。賞与もない。退職金もないところが多い。
構造改革で公務員を減らせと常勤職員数を減らしてきたが、仕事は減らず、むしろ、IT化によって余計な仕事が増え、一人当たりの仕事量も増え、それを補うためにより安く雇える非正規職員を雇っていく。そして、業務でアウトソーシングできる部分は業務委託にして、安く民間の方を雇う。
こういうことを繰り返すことによって、おそらく、公務職場で働く人で得をしている人はいない。公務員をバッシングすることで、何らかの溜飲が下がる人もいるかとは思うが、そうやって、ひとの待遇を下げることが回りまわって自分の足元も掘り崩していることにつながっている。
本書の途中には、御家人制度との歴史的つながりなどにも触れられていて、そのあたりの事情に疎い者には目新しかった。現代の公共サービスや入札制度のありかたを考えるにも非常に示唆に富むと思う。
ただし、公務職場における非常勤職員問題の歴史的経緯を知るには、別の資料にあたらなくてはならないと思う。
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