世界をよくする。

『世界をよくする簡単な100の方法 社会貢献ガイドブック』(斎藤槙著、2008.4.18)
本書はタイトルの通り、一人の「ただの人」が世界をよくするために簡単にできる身近な実践を紹介し、なぜそれをすることが世界をよくすることにつながるのかを説明しているものである。
オーガニック・コットンの良さは、綿花栽培をしている人が農薬にさらされずに健康被害を受けないでいられる点。フェア・トレード製品を購入して、生産国の人の暮らしに想像を働かせること。社会責任投資(SRI)を実践することが大切なこと。動物実験をしないで商品化されている化粧品を使うこと。これらは以前から知っていたが、具体的なお店の名前や通販でも購入できることなどの最新情報もあり、参考になる。
この種の書籍では中心となるテーマはエコのことが多いという印象を私は持っている。ここで言うエコには、ゴミ、洗剤、省エネだけでなく、食生活のことも含む。本書でユニークだと思ったのは、第3章を「あの人のために、誰かのために」としていることだ。100のアクションのうち45番目は「ワーク・ライフ・バランスを大切にする」として、赤ちゃんをあやしながらPCに向かい限られた時間のなかで仕事をし、家事もこなす男性の考え方を紹介している。アクション46は「父親も出産・育児休暇を取る」。ファザーリング・ジャパンや中小企業の先端をいくクララオンラインなども紹介している。
本書に通底するのは、ひとりひとりがちょっとした「善いこと」を実践しつづければ、世の中がよくなっていくという素朴な理想である。映画『ペイ・フォワード』を思い出した。サブタイトルに「社会貢献ガイドブック」とあるように、章を進ごとに、身近なことから大きな社会への働きかけへと段階を踏んでいく構成になっているのかもしれない。

「日本愛妻家協会」(ここ)という団体があることも初めて知った。サイトを見ると、キャベツ畑で妻への愛を叫ぶ男性たちのイベントが紹介されていた。そういえば、最近ニュースで見たような気がする。「活動理念」の一部に「サスティナブルな夫婦環境を保全するワイフコンシャスなライフスタイル」とあった。ははは。妻を大切にするとまでいかなくても、「妻に害を与えない」→「妻はストレス解消のために無駄な買い物(消費行動)をせずに済む」→「地球環境に負荷をかける行動が減る」となって、世界がよくなるかもしれない。個人的な趣味を言わせてもらえば、私は内容が「愛」でも「平和」でもその他有益などんなことでも、大きな声で言われたり叫ばれたりするのはイヤなので、こういう活動にまい進する男性は苦手です。さらに、愛妻家だったりすると、なお一層困惑してしまうというか。愛妻家協会の会員の妻たちに、率直な感想を聞いてみたい。いや、すばらしい活動です。日比谷公園などでも叫んでおられるようです。うちの傍が会場になりませんように。
知らなかったことも結構あって勉強になった。
action68として紹介されているところは、感動的だったので、そのまま以下に抜き出しておく。
action68
後悔をバネに行動する
二〇〇一年、アメリカ大統領を退任したビル・クリントンさんは、次なる人生の目標として「世界の大統領」になることを選んだと言われています。天性の政治家、あくなき野心家でもあるクリントンさんがこう考えたのはごく論理的ななりゆきだと、周囲の人も認めています。
ピル・クリントン前大統領が慈善活動の母体としているクリントン財団では、二〇〇二年以来、HIV・エイズ問題に取り組むプロジェクトの一環として、世界の大手製薬会社と交渉し、貧しい国の患者が必要とする医薬品の大幅値引きに合意を取りつけてきました。また、二〇〇五年には、教育、保健、貧困などの問題解決を目的とした活動をスタート。さらに翌年には、環境をテーマとした活動も加えました。
二〇〇五年に『ワシントン・ポスト』紙に掲載された記事によると、その年の最初の五カ月だけで、クリントンさんが訪問した国は二十二カ国。三十人を超える国家元首と面会したそうです。各活動も成果を上げています。例えば、HIV・エイズの活動では、六十六の発展途上国向けに大幅値引きされた医薬品が買えるようになりました。恩恵を受ける患者は七十五万人。また、この活動で小児向けの薬を買いつけるようになってから、治療を受けられる子どもが一万二千人増えたと伝えられます。クリントンさんの休むことを知らないエネルギーと、各国リーダーとのネットワーク、それに並外れた交渉力は大きな武器。こうして、大統領退任後のわずか三、四年で、当初の目標どおり、世界のスポットライトを浴びる存在になりました。
でも、クリントンさんと言えば、一九九三年に四十六歳の若さで大統領になり、任期の最初の頃に見せた外交面での未熟さが記憶に残ります。それがここまで世界の諸問題に情熱を注ぐにいたった背景には、意外にも「後悔」があると言います。
一九九三年から一九九四年は、新政権にとって海外の悪いニュースが相次ぎました。ソマリアの平和維持活動は不調、ボスニアの民族紛争は二年に及び、ルワンダでは八十万人が虐殺されました。しかし、クリントン政権は手をこまねいて動かず、批判を浴びました。
のちに大統領の任を離れてから、ルワンダに対して何も行動しなかったことが大統領としての最大の後悔だと語っています。
いま、財団では、ルワンダに新しい病院を建てるなど、特にこの国に注意を払ってきましたが、その理由をテレビのインタビューで聞かれたクリントンさんはこう答えました。
「あのとき決断を下さなかったことへの後悔を、残りの人生をかけて償っていきたいのです」
大統領就任直後の数年問「優柔不断」「煮え切らない」などと批判され、任期の最後の二年間は不倫スキャンダルで「嘘つき」とまで言われた前大統領。ですが、現在の世界貢献への原動力は純粋な思いかもしれません。今、アフリカのクリントン人気は絶大です。
「ルワンダの人たちと話すと、みんながこう言ってくれるんです。『少なくともビル・クリントンは謝ってくれた。謝ってくれた人なんか、ほかにいないのに』と」
■クリントン財団(英語のみ) ここ
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えふさん
「日本愛妻家協会」へのコメント最高です。大勢でこういうことができるのが「こわい」。ライフスタイルは個人個人で持ってほしいものです。
投稿: 山口一男 | 2008年9月27日 (土) 06時32分
山口一男さん、コメントありがとうございます。
日本愛妻家協会、不思議な集まりです。サイトを見ると、「愛を叫ぶ活動」には妻なども同伴しておられるようです。同伴家族もそれなりに楽しんでおられるようでしたら、けっこうなことです。
しかし、おっしゃるように、なぜ大勢でやらなくてはならないのかという点に少しひっかかりを覚えるのです。「愛を叫ぶ」行動の宛先が妻となっており、名目上は妻との絆を深める行動とされているにもかかわらず、実は男性同士のホモソーシャルな絆を深めるイベントになっているように思える、その二重性にひっかかるのかもしれません、私は。
とはいえ、妻だけを見つめる純粋行動をすべきだと言いたいわけでもなく。「純愛」は、オーストラリアのエアーズロックから叫ばなければなりませんが、それもなぜそこが「世界の中心」なのかに疑問がありました(『世界の中心で愛を叫ぶ』というドラマや映画が数年前に流行ったのです)。
年に1度の非日常のなかで、愛を叫んでもらうのではなく、日常の中で家を掃除したり皿でも洗ってもらったほうが妻のためになるのではないか、とつい考えてしまう、(男の)ロマンを解しない無粋な人間の意見ですが。
投稿: えふ | 2008年9月28日 (日) 21時08分
えふさん
1.「男性同士のホモソーシャルな絆を深めるイベント」 なるほど、いわれてみれば、ほんとにそうです。日本社会の縮図かな。
2.「日常の中でーー」。依然妻の側から見た「夫婦関係満足度」を分析したのですが、平日は日常の対話、夕食やくつろぎを共にすること、それに加えて休日は趣味・娯楽・スポーツなどの共有度でした。また幼児のいる家庭では夫の育児分担度が重要でした。愛は共有時間の質に依存するもので、言葉はむしろ日常の対話(とくに相手の話に真摯に耳を固めけること)が大事で、外で大声で叫ぶものでは全く無いないと思います。
3.「男のロマン」って、もっと社会的なものだと思いますが。世代格差もあるでしょうが。僕にとっては学者として世界で何か自分なりの物を作り上げることでした。できたかどうか分かりませんが。
投稿: 山口一男 | 2008年9月28日 (日) 21時54分
追記です。
前のを書いた後で、確かに「男のロマン」という日本語はあるけれど、「ロマン」って男に限ったものではないはずなのに、「女のロマン」という言葉が無いのは何故だろうと思いました。女性の方が一般に現実主義的と考えられているからでしょうか?でも、平和問題などでは、むしろ保守の男性が現実主義を強調します。ロマンがロマン主義であり、現実的でない空想や、非合理的思考、個性・主観の重視などを意味するなら、性別には関係なさそうです。にもかかわらず「男のロマン」なるものが強調されるのはリスク選好型の行為(人生の賭け)を選択するときの男性の口実なのかも知れません。いずれにしても「ロマン」は普通個人行動の特性をいうので、ホモソーシャルな集団行動とは大分違う気がします。
投稿: 山口一男 | 2008年9月29日 (月) 03時15分
山口一男さん、いろいろありがとうございます。
1.の「ホモソーシャルな絆」については、出自はイギリスのセジウィックかと思っているのですが、日本人男性にもあてはまるとしても、「元祖」はイギリス(たぶん、アメリカも入るのでは?)社会でも見られるのではないかと思っていました。
2.「夫婦関係満足度」のご紹介、ありがとうございます。「相手の話を真剣に聞く」ことの重要性は、生活実感としてもそう思います。
自分の話を聞いてほしい人に比較して、人の話をじっと聞く人は相対的に少ないために、あらゆる場面で需要が高くなるような気がします。夫婦間だけでなく、基本的に人間関係で「聴く姿勢」は必要なのでしょう。『モモ』のモモがたくさんの人と仲良しになっているのも、モモが「聴く人」だからだと思います。
3.「追記」でおっしゃっていること、私が「男のロマン」と聞くと、つい感じてしまうことを言い当てておられます。「女のロマン」がないのは、日常の瑣末なことをするよう割り当てられ、それをこなしているうちに、スケールの大きなことを考える余裕がなくなるばかりでなく、どんどんみみっちくなり小さな世界のことばかりを考えるようになるからのような気がします。また、女子には「大志を抱け」と言ってくれる人はあまりいませんでしたし。全否定するつもりは毛頭ないのですが。
ロマンは個人行動の特性なのですね。
「男のロマン」については、再考してみます。
「山口一男さんのロマン」については、ちょっと、というか、相当、感動しました。「感動しました」の前に何か言葉をくっつけたかったのですが、すぐには言葉になりません。
投稿: えふ | 2008年9月29日 (月) 20時48分
2.の日常の中で、妻との対話をするようなことが、もしかすると、外で「愛を叫ぶ」行為よりも、ずっと恥ずかしいことなのかもしれません、こういうタイプの男性にとっては。
投稿: えふ | 2008年9月29日 (月) 21時27分
えふさん
ホモソーシャルな絆、イギリスのセジウィックのことは知りませんでした。情報をありがとう。もちろんそういう絆はアメリカにもあり、典型的には「退役軍人会」がまさにそうです。「一緒に闘った仲間」という意識からでしょうか。日本の場合、終身雇用のせいか企業にそういう特性があるのがユニークだと思います。
えふさんの3のコメントですが日本の女性に大きな社会的夢が少ないのはまさに社会的機会が性別で不平等でかつ、育児・家事負担が女性にほとんどかかっているせいだと思います。
「ロマンが個人行動の特性」といったのはいいすぎかもしれません。でも、ロマン主義は個性・主観を重んじたので、没個性的なものはロマンではないです。言いすぎといったのは集団で動くこと自体と矛盾するわけではなく、ロマン主義を代表するドイツのシラーらの「疾風怒涛」の文化運動は個人個人が個性を放っていても、個人行動ではありませんでした。日本で「男のロマン」といえば、坂本龍馬ですが彼も時代の流れの先をこうとして人々に働きかけたのでやはり「運動」をしたので、個人行動ではあっても社会的行動でした。ロマンは個性的な文化的あるいは社会的行動といえるかもしれません。
投稿: 山口一男 | 2008年9月29日 (月) 22時32分