バオと呼ばれていた英語教師の話。
あい・みゆき(藍友紀)の短編集「城ヶ島の雨(梁田貞小伝)他」
自費出版の本です。ここにも書いたように、入手したいと相談されて、ネットオークションで落札したものです。
現物は出品者から直接本人に送付してもらいましたが、私も中身を読んでみました。音楽家の梁田貞さんという方の思い出を綴った内容です。著者は音楽教師をしている梁田さんに音楽を習った人です。
当時子どもだったこともあり、梁田さんがよい曲をいくつも作った音楽家であることを知らずに、同級生たちとからかったりして梁田さんを怒らせたり悲しませたりしたことへの悔恨と、のちになって尊敬の念を深めたことなどが思い出とともに語られています。
梁田さんは、私たちも知っている「どんぐりころころ」も作曲なさった方だそうです。それから、私は知らないのですが、作詞を北原白秋がした「城ヶ島の雨」という歌の曲も作っておられるようです(これは、現在でもCDなどが入手可能です)。
本書は、梁田貞という人物を中心にした内容なのですが、私は、梁田さんの人柄を説明するエピソードに出てくる同僚の英語教師の語った内容に感銘を受けたので、以下にご紹介します。
戦時中で、英語を敵性語として時代に英語教師をしていた同僚の出征が決まったとき、その英語教師が全校集会でのあいさつに
「私は戦争で死んだりするのは厭です。天皇陛下のために戦死するなどということは、犬死にと同じです。そんなことは御免です。きっと生きて帰ってきます。私にとっては、戦争に行くことよりも、英語を教えることのほうがずっと大事なことだと思っています。きっと生きて帰ってきて、もう一度、皆さんと一緒に英語の勉強をします」
と述べられたそうです。
他にも、授業中のエピソードとして出てくる場面で生徒に向かって語られる話も素敵なので、少し長いですが、以下、引用します。
「日本人の怖い所は、自分がろくに知りもしない事について、第三者の話だけを鵜呑みにして平気で批判することです。請売りの知識だけで、物事を判断することです。たとえば最近は、自由とか民主々義と聞いただけで、何の知識もない人が臆面もなく”アカ”という烙印を押して蛇蠍のように嫌ったり怖がったりしています。しかし本当に怖いのは、このように何も知らない人たちが、”付和雷同的に物事の是非を判断する”という非科学的な態度じゃないでしょうか?自由主義がまちがっているかどうか、民主主義が誤りかどうか、又マルクス主義はどうなのか、そういうことを判断しようと思ったら、まず一ばん先に、それが何んな考え方なのかを正確に知らなければなりません。他人の話に盲従するのではなく、自分で直かに自由主義者から話を聴き、民主々義者の書いた本を読まなければいけません。それも直接、原文で読むようにして下さい。私はマルクス主義者ではありませんが、それでもマルクスの著作は、ドイツ語の原文で読みました。原文で読んでこそ初めてその人の主張が解り、従って批判をする資格も出来ると思います。翻訳に頼るのは良くありません。翻訳の段階で、翻訳者の主観が入り込むからです。解説本は、ますます駄目です。第三者というものは、人の意見を、みんな自分の都合のいいように捻じ曲げてしまうからです。己を以て人を律する、ということもあります。ですから本は原典で読むべきです。語学を一生懸命勉強して、出来る限り原書で読むことを心懸けてください。特に自分が攻撃しようと思う相手の主張は、必ず原書で読んで下さい。それでなければ本当のことは解りません。従って良いとか悪いとかの批判も出来ないはずです。それを怠って間接的な知識だけで他人を批判するのは、良識のない人のすることです。それは傲慢というものです。不遜というものです。それはファッショに繋がる危険な態度です。しかし残念なことに、日本人の中には、そういう人が多いようです。一片の耳学問だけで知ったか振りとして、恥じらいもなく批判をすることが横行しています。知らないことは知らないと言えば良いのに、日本人は見栄っ張りなのか、知らないとは言わない。自分の無知を顧みずに、他人の意見の請売りで無責任な批判をする。これは恥知らずなことです。それだけでなく、危険なことです。怖しいことです。こんなことでは、ほんの一握りの煽動者のために国民全体が欺されるということさえ、起こりかねません。そうならないためにも、皆さん、しっかり語学を勉強して下さい。えきるだけ多くの語学を身につけて、自分の目で物事を批判できる力を養って下さい。日本の国民みんなを救うためと考えて、勉強して下さい。お願いします」(42-43頁)
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