図書館の地位を見れば、国民の教育レベルもわかる?その1
『学力世界一を支えるフィンランドの図書館』(西川馨編著、2008年5月刊)
本書はタイトルから想像されるとおり、近年学力世界一で注目を集めるフィンランドを、図書館の存在という角度から眺めて見えてくるものについて書かれたものである。日本で図書館業務に携わる人たちを中心とした図書館見学旅行の報告書といったところである。
「第1章 見てきた図書館」では、実際に訪ねた15館ほどの図書館を写真・イラスト・平面図などを含めて詳細に紹介し、「第2章 フィンランドの図書館」では、現状を日本と比較したり歴史的な経緯を概観しつつ、読解力世界一を支える図書館としてフィンランドの家庭における読書生活が図書館とどのようにかかわりをもっているかが描かれている。「第3章 旅の印象」では、その名の通り、この見学旅行を通じて感じたことが書かれている。付録としてある「図書館法と図書館令」「Library Development Program 2006~2010」は翻訳してあり、なかなか他国の図書館の法令に触れる機会のない者にはありがたい構成になっている。
図書館は建物としての外観や設計も機能の1つに位置づけられるため、外観の美しさや内側の書架や閲覧机の配置に加え、設計図も平面図だけでなく断面図を紹介しているところもある。
写真や図が多いため、視覚的にも楽しめるのだが、圧巻は機能面に対しての記述だろう。IT立国を国策にしているだけあって、図書館のなかのIT化も進んでいる。モバイルPCでの通信環境が日本とは比べ物にならないのだ。具体的には、図書館内であればどこでも無線LANに接続できるようになっている。音楽に重点を置いた図書館では、聴くだけでなく、利用者が作曲したりそれをyou tubeなどでネット配信するまでのところまでサポートしてくれるという。
日本の状況に慣れているものにとっては、いろいろさまざまに羨ましいのだが、こういう配慮は日本になくてよかったのかもと思うこともある。それは、フィンランドの図書館ではトイレを使用するためにも登録カードを使って入室するシステムになっている点や、そこの照明は青い光を出すものにしている点などである。青の照明の下では、静脈が見えないそうだ。どういうことかというと、トイレの個室や設備を使って静脈に注射するタイプのドラッグ(覚せい剤など)を打つ人がいるということなのだ。ヨーロッパの別の国では、注射回し打ちによる感染症防止のために、無料の注射針を配布している国もあると聞くが、フィンランドではこういう対策をしなければならないほど、ドラッグ汚染がポピュラーだということなのだろうか。
日本との比較で特筆すべきと思うことの1つは、読む能力があまりない人へのサービスが行き届いていることだ。これは、フィン語のリテラシーのない移民者に対するフィン語習得支援だけでなく、まずは急務であるフィンランドで生きるための生活力をつけさせるために母国語によるサービスを広く展開していることである。中国語、英語、アラビア語、ロシア語、ヒンディー語、パシュトゥーン語、クルド語、ペルシャ語、ソマリア語、ボスニア語、クロアチア語、セルビア語などでのコンピュータ教室が図書館で提供されているとは!日本では、東京や横浜などの大都市でも外国人対応の公的機関による相談サービスなどで、せいぜい6ヶ国語対応であることを考えると、そもそもの人口規模などを考えても、驚嘆すべきことではないだろうか。こういうところに、フィンランドという国が国家としてどのように移民に接しているかに強い本気度を感じ、日本の状況を反省してしまう。
読む能力については、母国語が違う人という意味だけではなく、失読症の人への対応も含まれる。図書資料をコンピュータのソフトを使って、ゆっくりと読むことができるサービスが提供されているという。
日本でも、読む能力のない、あるいは低い人へのサービスの重要性については、図書館業界の人にはいくらか認識されているものの、実態としては、大活字本や点字本、朗読CDがあるのがせいぜいではないだろうか。それも、レパートリーは悲しいほど少ない。勝間和代さんがよさを強調されて以来、日本でも「オーディオブック」のラインナップが少しずつ増え始めているが、これは、視覚をもつ人が聴覚も活用しようということだけでなく、同時に視覚をもたない(弱い)方にとっても有用な変化なのではないかと思う。
(その2につづく)
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