松本では「吊るす」が大切のようです。
5日は松本をふらついてみました。10時過ぎから雨が降っていました。前日よりも何度も気温が低く、街の温度計で11℃でした、11時くらいで。そんなことで、まぁ、寒かったわけですけども、駅の洗面所にいたらお掃除の方が「もっと寒くて雨もいっぱい降ればいいのに。暑い暑い」とおっしゃっていました。そこには、私しかいなかったので、私に言ったのかと思い「暑いですか?」と聞くと、「掃除しているとものすごく暑いから」と言われました。私の職場の一つでも、お掃除の方は季節にかかわりなく汗だくで掃除をしてくださっています。ここでも同じでした。いつもきれいにしていただいて、ありがとうございます。
この方の祈念が届いたために、その後、私が松本に居る間はずっと冷たい雨がかなりの強さで降っていました。それでも、うろつきたい願望のほうが勝ったので松本城に行きました。それにしても、タクシーのドライバーの方には、「感じ悪くすること」という服務規程でもあるのでしょうか。まぁ、ここだけではありませんけど。
傘なしにはいられなかったので、城の入口で安いビニール傘を買いました。松本城は、お堀にきちんと水が張ってあるのですね。名古屋城は、お堀は水がなく、お堀の底にはシカご一家が住んでおられます。どこから来たのか、いつからいるのかが気になるシチュエーションですよ。
お堀に水がある場合には、白鳥などがいることが多いような気がするのですが、鴨がよかったです。鴨、いいですよね。あの適度な大きさと、あの形。無駄がありません。色も控えめで松本城の色調にマッチしています。
鴨に大変興味をひかれた私でしたが、鴨サイズではなかなか大きな写真にはなりませんでした。これでも、携帯デジカメのズームいっぱいで寄って撮影したものです。ふたりは仲良く同じ距離を保ったまま、プカプカしておられました。
もう少しお堀に近いところから撮影しました。この写真は割と大きく撮れました。この間も雨は降り続いていたのですが、ちょっと小雨だったので、さしていた傘をたたみ足元に置いて撮影に気をとられていたところ、吹いてきた風に傘が動かされて、お堀に落ちてしまいました。
あ…。と思っていたら、すぐにどこからかおじさんが現われて、ご自分が差していた傘の持ち手のところをフックのように使って拾い上げてくださいました。おじさん、ありがとうございました。どこにいたんですか?たぶん、観光されていた方だとは思ったのですけども。
これが松本城の天守閣のところです。わかりにくいですが、かなりの雨が降っていました。だから、空も暗かったのです。人もそんなにいませんでした。平日だったからかもしれませんけど。
城の中は、入口で靴を脱いであがる昔ながらスタイル。そんな名前があるかどうかは知りませんが、私はそう呼んでいます(今日から)。
中に入ると、特にエレベータなどをつけちゃった大幅リフォームがありません。安心しました。これは、松江城と同じです。
天守閣の最上階へのぼるにも、現代の感覚では信じられないほど急勾配の階段を自分で歩くしかありません。階段には手すりと滑り止めの加工がなされていました。薄暗くて余計なことがなされていない点に好感が持てました。
もうすぐ最上階というときに、この城のなかでもっとも急勾配だとされる階段にさしかかりました。説明を読むと、角度が45度以上はあるとか。45度以上あるというのは、のぼる人の視点からだと、ほとんど直角なところをのぼるような感じがします。うまくのぼれないと大変危険です。ちょっとでもバランスを崩すと後ろに倒れてしまうかもしれません。そんな緊張感のある階段ですが、人によっては足を踏み外したりしないとも限りません。
そのためだと思いますが、階段ののぼりのところに男性が立っておられました。何をしているのかと思っていたのですが、のぼる際にはのぼる前に注意喚起をし、降りてくる人がいたら降りはじめる前に注意喚起をする、そういう仕事の方のようです。人通りも少ないし、ここで一人でひっくり返って頭でも打って気を失っていたら、発見が遅れて危険かもしれません。そういうことでも過去にあったのでしょうか。この男性は、毎日ここに立って注意喚起をされているのでしょうか。数人でのシフト勤務なのでしょうか。質問はできませんでした。
城の敷地を出ると、博物館が隣にありました。城見学とセット券になっていたので、ちょっとだけ見るつもりで入ってみました。中は、松本の地域特性などの紹介があるフロアだけ(1F)を観ました。2階は工事中で閉鎖、地下1階もありましたが、まぁ、いいか、と。
もう少しで畳1枚分はありそうな大きなわら草履が壁にかかっていました。これを吊っている部分が破損して落ちてきたらただでは済まないだろうなぁと思い、吊り下げている留め具の部分を確認しようと裏の辺りを見ていたら、話しかけてこられる方がいました。何かと思ったら、そこの博物館のガイドをする市民ボランティアの方でした。70代も半ばくらいは過ぎておられるように見える女性の方でした。毎週金曜日にだけガイドを務めておられるそうです。
この無駄に大きなわら草履ですけども、松本市ではないが周辺のある地域で、今でも毎年行っている行事で使うものだそうです。何に使うかということですが、そこの集落の入り口にあたるところにある木に吊るすそうです。何のために?それは、「この村には、こんなに大きなわら草履を履く大男がいるんだぞ」ということを村の外に向かって宣言することで、外敵の襲来を防ぐような意味合いがあるのだそうです。相当昔からやっているそうですが、今でも毎年やっているそうです。
外敵がいない現在では、災厄よけみたいな意味もあるのだと思うのですが、こんなに大きなわら草履を吊るす作業では、十分に注意しないと、これが落ちてきて災難を招いてしまうのではないかと、余計な心配を感じました。
それから、今では、こんな草履は普段は使わないのですけども、「女の一人暮らし」の警戒のために、男性モノの下着を干したり男性靴を玄関に置くといったようなのが、形を変えて残存しているのでしょうか。「俺は男だ。守ってやる」みたいな感じがして、ちょっと嫌な感じを受けました。誰もそんなこと言っていないのですが。それにしても、今でもこんなことを続けるのは並大抵のことではないですよね。吊るす作業の際には、本当に気をつけてくださいませ。
もう1つ、不思議な独特の行事をボランティアさんに説明していただきました。これは、わらで作った馬を子どもたちに引かせて、集落から貧乏神を追い出すための年1回のものだそうです。その馬は骨格を木で組み、その周りにたくさんのわらを巻いて作るのだそうですが、大きさは実際の馬くらいあります。大きいです。そこに、わらで作った「ジジ」「ババ」のわら人形をまたがらせて、彼らに貧乏神や不幸を背負ってもらい、自分たちの村から村の外に連れて行ってもらうのだそうです。
村の外に連れていくためには、5歳以下(?)の村の子どもたちがわらの馬を引くことが決められているそうです。誰が決めたのかはわかりませんが。村の外に出したら、大人が火をつけて焼くのだそうです。ただ、近年はこの地域にも少子化が影響しており、そのうち、馬を引くことのできる年齢の子どもが供給されなくなるのではないかといった懸念があるそうです。ある程度の人数がいないと、馬は動かないと思うので。子どもを増やすか、ルールを変更するかの瀬戸際ですね。
これは毎年2月8日に決まっているそうですが、日が近いので節分の行事なのかと思ったら、それはそれで別にやるのだそうです。勤勉ですよね。松本市のサイト(ここ)に紹介がありました。市重要無形民俗文化財だそうです。正式名称は、「入山辺厩所の貧乏神送り」というのですね。しかし、松本市のサイトでは、あちこちにいろいろな似た行事があるようです。みなさん、熱心ですね。
もっとも特徴的というか、個別の家庭レベルでもっともポピュラーなことは、七夕の習慣が独特なことでしょうか。8月7日に行うらしいのですが、笹に短冊をつけて飾るだけでなく、七夕専用の人形(彦星と乙姫?)を縁側に吊るさなければなりません。顔のあるハンガーみたいなのを人形屋さんで買い求め、それに自宅にある浴衣などを着せて吊ってください。これが必須アイテムだそうです。ついでに、七夕にだけ年に1回だけ食べることになっている「ほうとう」があるそうです。ほうとうと言えば山梨県が有名だそうですが、かぼちゃなどを入れて味噌味にした鍋焼きうどん的なものとは全く違うものでした。平べったい麺をほうとうと呼び、汁はなし。さらに、きなこかあんこと一緒に食べるのだそうです。意味はわかりません。
このように、松本周辺の人々においては、「野菜を漬物にする」「果物をジャムにする」のほかに、魚というかイカは塩漬けにする(塩丸イカというそうです)などの習性が見られ、さらに、さまざまな年中行事では、「吊るす」が基本のようです。いろんなものをどこかから吊るすことが決め手のようです。何の?たぶん、何かした、っていうことを感じるために、「吊るす」っていう行為が不可欠なのではないでしょうか。
干すことで保存性を高める食べ物も、基本は「吊るす」ですね。
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