樋口直哉という人。
『星空の下のひなた。』(樋口直哉著、2008年11月刊)
とあるフリーペーパーの類を読んでいたら、印象的なフレーズを書く人を発見しました。それが、樋口直哉という若い作家だと知って、最新刊を読んでみたら、ねこさんが出てくる話でした。それも、ちょっと不思議な。最近、こういう話にちょっと縁があるみたいです。ひなたというのは、そのねこさんの名前なのです。
この作品は、主人公である29歳の男性の現在と、中学生の頃の記憶とが交錯しながら展開する話です。ひなたというねこさんは、その中学生の頃に出会い、15年後である現在にも登場するのでした。
彼は中学生のときも現在も、好きな相手にはすでに決まった相手がいるのでした。一般的な感覚では、彼の成就することのない思いに同情するのかもしれません。だけど、もしかすると、彼はその鋭い嗅覚で、もともと成就しない相手を見つけ出しているのではないか。うまくいかないことを選択しているのではないか。そういう気もします。なぜか?それはわかりませんが、うまくいかないことが、彼の望みだからではないでしょうか。その理由ですか?もともと恋愛関係に対して、ペシミスティックなんじゃないでしょうか。で、その自己概念を守ることのほうが、自分の世界から出ていくよりも、楽だからではないかという気がします。なぜかといえば、知っている世界のほうが、知らない世界よりも安心だからです。ただ、すでに知っている、経験しているという点においてのみ、馴染みがあるだけだとしても。
本書ではなく、この樋口さんを発見したフリーペーパーに書かれていた連載についても、少し書いておきます。
徳間書店さんが出されている『本とも』という冊子です。写真は2009年1月号ですが、私が見たのは2月号。128頁もあるので結構な量ですね。サイズはA5。ここに、樋口さんは「くもりガラス越しのオレンジ」という作品を載せています。24頁ほどの短編なのですが、私が気になった部分を抜粋しておきます。この部分によって、私はこの人はどんな人なんだろうと気になり、別の作品を読んでみようという気になったわけで、インパクトがあったわけです。
「あなたが好きな人ってどんなタイプの女の子なのかしら。理想の彼女に求めるものって何?」
僕は返事に窮してしまった。
「何だろう……?君は彼氏に何を求めるの?」
「わたし?わたしは……」と武藤さんは少し考え込むような仕草をしてから「そうね。条件は二つかな。その人といるといつも一人でいるときみたいに自由な気持ちにさせてくれること。二つ目はわたしを一人でいるときみたいな寂しい気持ちにさせない人」
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