「融資は基本的人権」とまでおっしゃいますか。
マイクロクレジットの先駆けだと思うのですけど、グラミン銀行の総裁であるユヌス氏のインタビュー記事、なかなかよろしいです(ここ)。2006年のノーベル平和賞を受賞したことで日本では有名になったように思いますが、いくつか日本語の著書(訳書)も出ています。
融資対象のほとんどが女性、それも貧しい女性なのですけど、無担保で融資するということと、返済率が98%という注目すべき事業をなさっています。私がすごいと思ったのは、それだけではなく、「支店や行員の評価も借り手が貧困から脱却できたかがポイント」というところです。返済ができたかとか、そういうことではないんですね。事業が成功すること、そうすれば、結果として返済もできるのでしょうけど、そこにとどまらず、そもそもの目的が貧困からの脱却なのですね。グラミン銀行は1983年に設立されているのでもう25年も歴史を持つのでした。
貧困女性に無担保で融資をすることが、お金を貸す以上の意味と効果をその女性に与えているというところに、いろいろと考えさせられるものがあります。それと、信頼の大切さ。現在の金融危機に対するユヌス氏の意見も参考になります。
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えふさん
グラミン銀行すごいです。理論的にも奥深いです。経済活動でありながら、通常の経済学が仮定する利益の最大化を人間の行動原理におかないのです。信頼の育成原理、互酬の原理、罰を伴わない連帯責任原理などに依拠しています。僕も、自分自身を含めて、tっとグラミン銀行から学ぶ必要を感じます。
投稿: 山口一男 | 2009年3月24日 (火) 00時09分
山口一男さん
グラミン銀行、そんなにすごいのですか。私はあまり詳しくは事情を知らないので、勉強してみたいと思います。マイクロクレジットって他でも試みているとは思うのですが、成功例ってあまりないのでしょうか。ここまでグラミン銀行が注目される理由は20年以上の経験があるだけではなく、成功しているという点なのだと思うのですが、その辺の事情にも疎いのでした。
日本でも多くの女性は担保となるべき資産をもたないので、先進国でも応用できるのなら、積極的に取り入れるといいのかもしれません。
ご指摘のどれも関心がありますが、特に「罰を伴わない連帯責任原理」って興味深い。ほとんどの連帯責任にはサンクションがつきものだと思うので。う~ん、いろいろと興味深いです。
投稿: えふ | 2009年3月24日 (火) 22時57分
えふさん
グラミンバンクは「5人組」というか、債務者が5人一組である種の連帯責任を負う制度を採用し、自治を促しています。連帯責任はおっしゃるとおり、サンクションを伴い、自治が抑圧的になる場合もあります。問題は5人組のあり方です。江戸時代の5人組には犯罪への連帯責任がありました。これは確かに犯罪防止への自治をも促したけれど、それぞれがそれぞれの監視者になるという抑圧的な面もあり、また一旦5人組の誰かが罪を犯した場合、共同で隠蔽する傾向も見られるといった問題も多々あったようです。
一方グラミンバンクの場合「犯罪の連帯責任」に類似した機能を持つ「債務の連帯責任」はないのです。誰かが債務を納められなくとも、他の人に債務義務は生じません。この点で江戸時代の5人組と大きく違います。ではグラミンバンクの連帯責任は何を意味するかというと、5人の中に1人でも債務不履行者がいると追加融資が受けられるかくなるのです。つまり、「得になる機会の相互依存」の原理を導入しているのですが、これは債務責任の連帯とは非常に質の異なるものと考えられます。いまより「もっと得になること」への連帯責任か、「損害をこうむる」ことへの連帯責任か、の違いです。
行動経済学の始祖ともいえるカーネマン氏とツベルスキー氏によると、人は「もっと得をすること」についてはリスク回避的で、「損害をこうむること」にはリスク選好的になるといわれます。江戸時代の5人組の制度で、一旦犯罪が発生するとみなで隠そうとした行為は、リスク選好行為の典型です。その隠蔽が見つからなければ罰を受けないが、見つかればもっと厳しい罰を受ける。それにもかかわらず、見つからないほうへの賭けにでるわけですから。現在のわが国で多発している偽装商品なども、企業ぐるみの不正行為となりがちなのも、同じ理由と考えられます。
一方グラミンバンクの連帯責任の場合、損をすることではなく、もっと得をする(追加融資が受けられる)ことへの連帯責任ですから、逆のリスク回避型の行為をとると考えられます。つまり「賭けをする」ことなく堅実に商売をし、利子を返済することに、みなで励ましあっていくことを促します。自主的に5人組の仲間の債務返済を助ける人も出てくる可能性もあります。グラミン銀行創始者のユナス教授が当時カーネマン教授らの理論を考えてこういう組織を作ったのかどうかはわかりませんが。いづれによ、資産の担保無しに文字通り信用貸しし、債務履行95%以上の実績をあげ、多くの女性事業者を育成したことは、素晴らしいの一言に尽きます。 参加者に言語教育(文字を読めない人もいるので)などもしているようです。
というわけで、グラミンバンクは実に興味ぶかいのです。
投稿: 山口一男 | 2009年3月25日 (水) 00時41分
山口一男さん
ご丁寧な説明ありがとうございます。なるほど、サンクションはあるのですね。でも、私のこれまでのフレームにはない大変興味深いものです。連帯責任にも、両方向のものがあるのですね。つまり、抑圧的なものと、相互扶助的というか相互支援的というようなものと。「連帯」を単独で使うと、ポジティブな意味があるのに、「連帯責任」と聞くとネガティブなイメージが強かったです、私の場合は。
それで、ポジティブな連帯責任を実践するしくみがうまくできあがっているのですね。そこがすばらしいと思いました。
2008年10月に日本語訳が出版されて何度か増刷されているようですが、ユヌス著の『貧困のない世界を創る』の前半をざっと見ると、さらに興味をもてるような内容でした。グラミン銀行の創世期には、すでにあった銀行に融資を頼みに何度も行っているのでした。が、貧困の女性には融資はできないと言われ、何度も無理だと言われたと書いてあります。それで、ユヌス氏本人が自ら銀行を始めることになったのですね。
そのエピソードも私は初めて知ったのですが、5人の連帯の女性たちがちょっとずつでもきちんと返済をする理由を聞いたところ、そのグループの仲間の女性たちからの信頼を裏切りたくないから、のようなことを書いていました。
グラミンが銀行だけでなく、かなりたくさんの種類のビジネスを行っていることも知りませんでした。ソーシャル・ビジネスという言葉もユヌス氏が使いはじめたのでしょうか。
何カ条かの約束を読んだら、その中には、幼児婚をしないとかダウリを要求しない/されても応じないなど、女性と女児の人権を守る内容も入っていました。
ますます興味深いです。
投稿: えふ | 2009年3月26日 (木) 00時49分