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2010年2月14日 (日)

「待機児童が減らない」シリーズと、保育士の待遇問題。

 毎日新聞が、2010年2月1日から「保育はいま」という続き物記事を出しています。全3回です。

 1回目は、待機児童が減らない理由を潜在的需要と説明しています。

 2回目は、「認可保育所」と「認証保育所」との違い、利用者(子ども)の親の声などを紹介しています。「認可」のほうは、国(厚労省)の基準を満たす施設で、入所にあたっては自治体を通すことになっているようですが、「認証」とか「認可外」というのは、自治体独自の基準で、入所にあたっても自治体を通さず直接施設に申し込むなどの独自性があるようです。「認証保育所」は東京都で、他の自治体は名前も独自に称しているようです。

 3回目は、保育士の非正規化の話ですね。「保育の質」とか言われながら、保育士への十分な収入を保証されていない中で、現場の困惑が伝わってきます。

 雇用の劣化、などと、最近は、非正規雇用で働かざるを得ない人たちのことに、目が向けられるようになってきたように思います。

 この3回シリーズは、保育士の待遇についてきちんと触れておられる点で、大変好感が持てました。

 そのあとに、日経ビジネスオンラインの記事をどうぞ。こちらは、保育士の非正規問題を正面から取り上げた長文の記事です。

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「保育はいま:/上 待機児童が減らない 「預け先あれば働きたい」潜む需要」@毎日jp

 ◇増設にコストの壁/政府ビジョン、財源触れず
 「鬼ごっこだよ」「ワー、逃げろ」。マンションの谷間にある保育所の園庭に子どもの歓声が響く。

 東京都江東区。近年、大規模マンション開発が相次ぎ、人口が急増している。子どもの数も増え、待機児童の解消が大きな課題だ。

 「保育所を増やしても増やしても、待機児童が減らない」。同区の堀田誠保育計画課長は頭を抱える。

 09年度、区は新たに四つの認可保育所を開設し、08年度より定員を400人増やした。08年4月1日時点の待機児童は219人。400人分増やせば「09年度当初の待機児童は、ゼロとはならないまでも、100人程度まで減るだろう」と見込んでいた。

 だが、ふたを開けてみれば、09年度当初の待機児童数は312人。減るどころか逆に増えてしまった。堀田課長は「秋口に景気が急激に悪化したのが誤算だった。働きたいという保護者が予想を超えて増え、保育需要の伸びを見誤った」と悔やむ。

 経済情勢の影響もあるが、そもそも、子どもを保育所に預けて働きたいと希望する人の割合は上昇を続けている。同区の場合、09年度の乳幼(未就学)児人口に対する入所希望者の割合は33・32%。伸び率は前年度の2倍だ。目前の待機児童の数だけ定員を増やしても間に合わないのだ。

 10年度は認可保育所を2カ所増設、既存の施設の定員増も図る。しかし、4月からの入所希望者も前年比で200人以上増えている。待機児童を減らすのは厳しい状況だ。

 保育所数と待機児童数をめぐる「いたちごっこ」は、都市部など待機児童が多い地域に共通する問題だ。

 待機児童が減らない理由の一つは、いまは働いていないが働く意向があり、預け先があれば働きたいという「潜在的需要」の存在だ。保育所ができると新たに就労を希望する母親が増える「需要の掘り起こし」もあるとされる。こうした隠れたニーズは直近の待機
児童数には表れてこない。

 いたちごっこを止めるには、潜在的なニーズを含めた需要を予測し、計画的に保育の供給量を増やすしかないと専門家は指摘する。しかし、それには莫大(ばくだい)なコストがかかる。江東区の堀田課長は「いまは実需で精いっぱい」と語る。保育所の運営には、設置費用のほかに一つ増えるごとに年間1億7000万円ものランニングコスト(人件費など)がかかるからだ。今後5年で認可・認可外合わせて50園以上増やす予定だが、財源に限りがある中で、これ以上の負担は難しいという。

     *

 少子化で長期的には保育需要が減ることを見込み、増設に二の足を踏む自治体も多い。

 そんななか、東京都町田市は、少子化を見越して参入に慎重な民間事業者に協力を取り付けようと09年度から「20年間期間限定認可保育所」を単独事業で始めた。土地所有者が建物を作り、社会福祉法人が借りて認可保育所を運営すると、建設費や賃貸料を市が補助する。20年後は高齢者施設などに転用することもできる。市の担当者は「国の補助事業でやるより早く開設でき、事業者負担も軽い」と自信をみせる。少子高齢社会を巧みにとらえた妙手だが、保護者らの不安は消えない。

 「入所の順位は公平に決められているのか」「1歳児クラスはどこも満杯。育児休業を切り上げ、0歳から預けようか迷っている」

 市内の保育園利用者らで作る保護者連絡会が昨年11月末、新規入所者向けに開いた説明会。参加者からはこんな質問が相次いだ。

 4月には新事業で手当てした6カ所、490人分の保育所がオープンする。昨年4月の待機児童417人をカバーできる数字だが、これで待機児童がなくなるとの見通しは立っていない。

 政府が1月29日発表した「子ども・子育てビジョン」は、潜在的ニーズにも対応するとして年5万人のペースで、14年までに計26万人分のサービスを増やす数値目標を掲げた。現在は3歳未満児で4人に1人の利用を3人に1人まで引き上げる計画だ。

 保育所運営費は現行でも国・地方で計約1兆円。ビジョン達成にはさらに約3000億円の上積みが必要になるが、財源や国と地方の負担割合は示されていない。

     *

 子どもがすこやかに育ち、親の就労を支える保育所。最近は地域の子育て拠点、養護の必要な子どものセーフティーネットとしての役割も増すが、国の保育政策は揺れ動いている。待機児童解消のためとして、保育の質を維持する「最低基準」が一部で緩められ、子ども手当の見返りに保育所運営から国が手を引く構想も持ち上がって、保育関係者らを当惑させている。保育が直面する課題を3回に分けて報告する。

毎日新聞 2010年2月1日 東京朝刊

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「保育はいま:/中 育ちの場、環境置き去り サービス拡大に自治体が独自基準」@毎日jp

 ◇「駅前施設」「長時間開所」…親の利便性優先
 東京都杉並区の男性会社員(36)は、長女(5)が1~2歳の間、区内の認証保育所を利用した。認証保育は東京都が独自の基準で助成する認可外の施設だ。妻の育児休業明けが年度途中で認可保育所の空きがなかったためだ。施設はマンションの1LDKの一室で、広さ40~50平方メートル。保育士3~4人とハイハイする子から活発に動き回る子まで総勢15人がひしめき合うように過ごしていた。認可に移ったいま、認証保育はかなり窮屈と感じる。
「次の子ができたら初めから認可にしたい」

 都市部の自治体は10年程前から、保育料、環境、保育時間などの独自基準を定めて、認可外施設の助成制度を作ってきた。待機児童対策などサービス供給量を増やすのが目的で、横浜市の「横浜保育室」、仙台市の「せんだい保育室」などがこれにあたる。

 都の認証保育は01年度に始まった。1月現在で480カ所、約1万5000人の子どもが利用する。認可と違い、入所は自治体を通さず、利用者と施設が直接契約する。保育料は3歳未満児月8万円、3歳以上同7万7000円(月220時間以下利用)の上限はあるが、原則、施設の自由。認可のように所得に応じた設定ではないため、低所得の人ほど負担が重くなる。定員20~120人で0~5歳が対象のA型▽30人未満で0~2歳限定のB型--の二つがある。親の通勤に便利な場所に作ると改修費などの上乗せ助成があった駅前ビルなどで増えた。都の「認証保育所一覧」には「駅徒歩1分」「徒歩2分」などの文言が並ぶ。

   *

 東京都府中市の認可外施設「ごんべのお宿」は定員15人。住宅や畑に囲まれた古民家だ。子どもは年齢でクラス分けされることなく、きょうだいのように遊ぶ。保護者も月1回の会議に参加して保育内容を話し合うので顔見知り。玄米中心の食事も特色だ。

 0~2歳児は都の「保育室」制度の助成を受けているが、都が認証保育への一本化を促していることから、移行を模索せざるを得なくなった。ごんべが、特に大事にしてきたのは保育環境だ。認証保育への移行にあたってもこのポリシーを貫きたいが、「これまで通
り」にこだわれば開設費用の助成を受けられないというジレンマに直面している。

 同市は、駅から徒歩5~10分程度にA型を開設した場合に改修費用の半額を補助している。ごんべを運営するNPO法人副理事・山内俊美さんらは、これまで同様0~5歳保育を続けようとA型を目指している。

 方法は二つある。一つは、改修費用の補助がないのを覚悟の上で、いまと同じような環境に認証の基準に沿った施設を開設すること。もう一つは補助を受けて、駅に近い場所に移ることだ。この場合、借地への補助がないためビルへの入居を考えざるを得ないが、「採光も不十分で、夏の水遊びなどが十分にできない」など保育環境に難点がある。定員を20人以上にすることにも抵抗がある。人数が多ければ経営は楽になるが、大規模施設の雰囲気になじめず、ごんべに避難して来た子どもたちがいるからだ。「駅に近く、開所時間も長く、保育料も安ければ、親には便利だが、それが子どもにいいとは言えない」と、山内さんは悩む。

 3歳の双子の男児をごんべに通わせているパートの女性(37)は、別の認可外施設で椅子にベルトで固定された息子たちが市販の菓子を与えられていたのに衝撃を受けて転園してきた。2人分の保育料負担はむしろ前の施設よりも安いくらいだという。「便利さも
大事ですが、保育の質にこだわる園にも行政の支援が必要だ」と女性は訴える。

   *

 国は保育サービスの量を拡大するため、保育制度を改革しようとしている。都の認証保育は、これを「先取り」した事例といえるが、駅前立地や長時間保育など親の利便性に配慮した結果、子どもが育つ環境を保障するという児童福祉の精神は置き去りにされつつある。

毎日新聞 2010年2月2日 東京朝刊

++++++
「保育はいま:/下 進む職員の非正規化 先生、1日3回入れ替わり」@毎日jp

 ◇役割、増える一方/自治体任せで予算減
 「もうすぐお迎えが来るからね」。群馬県高崎市の認可施設、私立おひさま飯塚保育園。ベテラン保育士の佐藤八重子さん(55)は、おやつをほおばる子どもに目配りをしながら、急な発熱で横になっている子を気遣った。

 「小さな子どもがいる家庭でも、働き方がとても過酷になった」と佐藤さんは胸を痛める。パート勤めの母親は解雇などで仕事が頻繁に変わる。正社員の父母は長時間労働が増え、過労でどちらかが体調を崩す家庭も珍しくない。「子どもには早寝早起きをさせてく
ださいね」。そんな一言でさえ、帰宅が遅くなりがちな親を追い詰めないようにと言葉遣いやタイミングに細心の注意を払う。

 雇用劣化のしわ寄せは幼子を育てる家庭に向かい、保護者を支える保育士の役割は重要性を増した。

 保護者対応の難しさは多くの保育園に共通する悩みだ。少し対応を誤れば役所に苦情が行く。経験とスキルがよりいっそう問われるようになっている。

     *

 公立保育園の保育所運営費補助は、04年に従来の国庫補助から一般財源化され、地方自治体にその配分が任された。財政難の自治体は保育分野に十分な予算を回せなくなり、保育士の非正規化が進んだとされる。

 子育て支援の充実で知られる石川県。ある公立園(定員120人)は職員28人のうち、市の正規職員は園長を含め7人。園長、主任保育士の3人を除くと、クラス担任ができる正規の保育士は4人だけ。2~5歳のクラスに1人ずつ付けると、0、1歳児の担当は非正規保育士を充てるしかない。

 園内で10~11時間過ごす子どもも多いが、保育士側は4時間などの短時間労働で朝、昼、夕と入れ替わる「つぎはぎ」状態だ。園長(59)は「時間決めなので、行事の途中でも『お先に』と言って家に帰ってしまう。これでは責任ある対応がとれない」と嘆く。

 数少ない正規職員は長時間労働で負担が増えた。3歳児クラスは27人。家庭の養育力の低下で、おむつが取れず、スプーンもうまく使えないなど、手のかかる子どもが増えているが、担任1人に非常勤1人を付けて、ようやく国の基準を満たしている。「被虐待児
のケアなど保育時間外の支援も必要になり、保育園に求められる役割が大きくなったのに、最低限の人の確保さえ難しい」と窮状を訴える。

 汐見稔幸・白梅大学学長は「いま大事なのは子どもの育成と、支援が必要な保護者の増加に対応するための政策だ」と指摘する。厚生労働省は、専門性を高めようと保育士資格などの見直しを検討しているが、現場の実態はこれとは程遠い。

 日本保育協会が全国807市区で行った調査によると、一般財源化前の03年と比べ、07年の保育所運営費を削減したと答えた市は6割を超えた。減らした経費でもっとも多いのは人件費で59・4%を占めた。全国保育協議会の08年の調査では、公立園で非正
規保育士の割合が7割以上との回答が6・3%もあった。

 駒村康平・慶応大教授は「保育の基準や財源を自治体任せにすればお金のない所は安く済ませようとする。地方に任せようとの動きもあるが、国が責任を持つべきだ」と話す。

     *

 この企画は大和田香織、山崎友記子が担当しました。

毎日新聞 2010年2月3日 東京朝刊

 次は、日経ビジネスONLINEの記事です。保育士の惨状について。3ページあって長いですが。

 著者の小林美希さんは、『ルポ 正社員になりたい――娘・息子の悲惨な職場』(影書房)、『ルポ “正社員”の若者たち 就職氷河期世代を追う』(岩波書店)を書いている方ですね。

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「職員も保護者も子供も、幸せをつかめない―保育士の36歳女性と29歳女性のケース」@日経ビジネスONLINE

2010年1月4日(月)

小林 美希

 「園長といっても、“名ばかり園長”のよう」

 小学校入学前の乳幼児を預かる保育士の杉浦正美さん(仮名、36歳)は、神奈川県内の民間保育所の“園長先生”だが、その待遇は、およそ名ばかりだという。

 正美さんは短大卒業後、大手食品メーカーで事務職として働いていた。人事部に配属されると、会社に疑問を持つようになった。社内の人事を見ていると、上司にうまく媚びる社員が評価を受け、出
世していく。そんな企業体質に嫌気が差し、転職を決めた。


「なぜこんなにも賃金が低いのか」

 以前から保育士に興味があり、「少子化で難しい分野かもしれないけど、自分には向いている仕事のはずだ」と覚悟を決め、24歳から仕事を続けながら独学で保育士試験の勉強をした。2年後に試験に合格し、会社を退職。その数カ月後、交際していた男性と結婚し、公私ともに心機一転。新たなスタートが始まった。

 就職活動するとすぐ、自治体が認可する民間の認可保育園に採用が決まった。正社員採用だったが、最初は数カ月間「見習い」として時給800円でのスタート。試用期間が終わり正社員になると、基本給が月14万9000円、保育士手当が1万円ついた。条件が良くないとは思ったが、「年齢で不利な分、経験を積みたい」と就職を決めた。

 しばらくすると、保育所の内部に問題があることが分かった。正美さんが勤める市では、待機児童対策に急ぐあまり、保育士の養成に追いつかないスピードで、保育所や保育所と幼稚園の両方の機能
を合わせる「認定こども園」といった箱物の設置を進めたため、働く人材の質の劣化を招いたり、労働条件が悪いと次々に職員が辞めていったりする問題が起こっていた。

 正美さんの職場では、保育士の資格を持たないパート職員が多く、「およそ、保育のプロとはいえない状態だった」(正美さん)という。正美さん自身も、特定の園児の年齢のクラスを受け持つわ
けでもなくすべての園児を見て、給食の配膳、哺乳瓶の煮沸消毒、トイレ掃除までやらされ、まるで“何でも屋”だった。「このままでは、保育士としてのスキルは上がらない」と考え、約5カ月でほかの保育所に転職した。

 一般企業が運営する保育所に転職すると、基本給15万円で保育士手当などがつき、月給17万円からのスタートだった。主任になると手当が3万円つき、施設長(園長)は手当が5万円ついたが、園長になっても月の手取りは約20万円に過ぎない。

 開所時間は、朝7時から夜9時まで。すべての時間帯に在籍しているわけではないが、園長になると管理業務や保護者のクレーム対応などが増え、残業が多くなった。夜9時まで居残っても仕事が終わらず、自宅にも仕事を持ち帰り保育で使う遊び道具を作る日々が続くが、その時間はもちろんサービス残業となる。

 「外食チェーンの“名ばかり店長”と変わらないな」と、思うこともしばしばだが、どこの保育所でも状況はさほど変わらない。時々、求人を見てみたが、正美さんは「多くは月15万円前後。月給20万円の求人があれば驚いてしまう」ほど、相場は低い。

 「やりがいを感じる職業だからこそ、お金で計りたくないが、なぜ保育士の賃金はこんなに低いのか」という疑問を、正美さんは常に抱いている。

 そのうえ、小さな子供を抱っこしたり、走り回る子を追いかけたりする保育士には、結婚・出産適齢期ならではの問題があった。園長として保育士の管理をする立場にあった正美さんは、「同世代で
妊娠中の保育士には、流産の危険があるからとドクターストップがかかることが多い」と感じていた。2006年4月に長男を出産したが、その後、自分の身の上にもそうした悲劇が起こったのだ。


自分の子育てができない

 2007年の12月、正美さんに待望の第2子の妊娠が分かった。この時期、クリスマスや年末年始の行事に加え、次年度の準備も重なってくる。忙しさは増し、夜11時まで残業することもあった。年が明けた休みの日、自宅にいると、子宮からの出血が始まった。だんだんお腹が痛くなり、出血量が増していく。

 「何か、変だ」と思いながら、シャワーを浴びると、子宮の辺りの痛みが激しくなり、その痛みに立っていられなくなった。うずくまると、生のレバーのような、袋のような赤い血の塊が子宮から押
し出されて出てきた。流産だった。

++++

 「仕事のせいだとは思いたくない」と自分に言い聞かせたが、仕事をしすぎて疲れていた自分を責めずにいられなくなった。

 「仕事、辞めようかな」

 そうも思ったが、忙しさに流されるように時間は過ぎていった。流産から半年後、3度目の妊娠が分かり、次男を出産したが、流産の痛みは今も消えてはいない――。

 こうした「職場流産」の悲劇は保育業界や介護・看護業界で特に目立っており、労働環境そして労働条件の整備を急がなければならない。

 女性労働協会は厚生労働省の委託を受け、2008年度に「母性健康管理ガイドブック」を作成している。職場での母性保護管理のあり方についてまとめている。妊娠22週未満の切迫流産や同22週以降の切迫早産には、自宅療養か入院による休業措置が必要で、医師の指示により労働負担の軽減措置を行うことで勤務可能な場合があるという。

 特に注意すべき作業例として、(1)激しい全身運動を伴う作業(スポーツインストラクター)、(2)筋力を多く使う作業(保育士、看護師、介護職)、(3)歩行時間の長い作業(外勤営業)、(4)長時間の立作業(調理師、販売レジ、美容師、工場でのライン作業)、(5)精神的負担の大きい作業
(納期や締め切りに追われる設計・開発や編集作業など)が挙げられている。

 正美さんの場合、「保育所運営会社の上司が、育児休業の取得について寛容で労働環境の改善に努めてくれるため、私は辞めずに済んでいるが、賃金が低いことで若手の保育士をなかなか採用でき
ず、園長としての苦労を覚えている」と話し、「2人目が生まれ、自分の子育てを考えたら、正社員でフルタイムの職場復帰は難しい。パートになろうか迷っている」と悩みは尽きない。

 本来、育児休業の取得や育児中の短時間勤務などは、当然の権利として認められているはずだが、現状では上司のさじ加減1つで決まる。


保育所の数が増えても、問題は解決しない

 新政権は、「子ども手当」の創設や待機児童の解消など、子育て政策に重点を置く。保育士の賃金が官民格差があることにも着目し、福島瑞穂・少子化担当相は「保育士の労働条件を改善したい」という。

 この官民格差の現状について、内閣府の「保育サービス価格に関する研究会」報告書(2003年)によれば、公立保育士の平均月給は約30万円。私立保育士は約21万円と3割程度の格差があることが示されている。ただ、その後、小泉純一郎政権下で公務員の削減が推し進められた結果、公立保育所では人件費削減を目的とした民営化や非正規雇用化などが進み、低い水準への格差縮小が行われている。しかも、人件費の高いベテラン保育士が倦厭され、これからを担う若手の正職員の採用が抑制され、新規採用は非常勤という状況に陥っている。

 待機児童が多く、売り手市場のはずの保育士の賃金が低い矛盾を抱えたままでは保育士が疲弊し、保育所運営が成り立たなくなる。となれば、保育所を頼りにする保護者の労働も奪いかねない。

 社会の高齢化とともに、介護職の賃金引き上げ議論は多少なりとも進んできた感はある。他方、子供に目を向けると、保育士の労働条件に関する議論は抜け落ちたままだ。これでは保育所が増えても
中身が伴わず、待機児童問題の解消にはつながらない。

 共働き世帯などを対象に、放課後の小学生を預かる学童保育(放課後クラブ)の利用者が全国で80万人を超え、過去最高となったことが、全国学童保育連絡協議会の調べで分かった。待機児童は都市部を中心に9000人を超えている。

 学童保育は、従来から保護者の間では切実な問題だった。保育所であれば民間の認可保育所や無認可保育所で延長保育を行うところを活用して、なんとかやりくりできた。小学生は「学童保育」に預
けることができても、閉所時間がおおむね午後6~7時と早い。その時間までに仕事が終わらず、特に小学校に上がったばかりの1年生など低学年の子供を持つ親は、下校時以降の安全を心配している。自宅が学校から遠い場合や幹線道路が帰路にある場合の安全、共働きで核家族で“鍵っ子”になっては悪い友達とたむろするようにならないか、年長の兄や姉もしくは祖父母が同居していない場合に保護者が帰宅するまで子供が安全に過ごせるのか――などが気にかかれば、学童保育などの閉園時間以降、結局は「母親が面倒みよう」となるケースが少なくない。

 放課後、親の帰宅できる時間帯まで塾などに通わせることができれば、ある程度の安心を担保できるが、その経済力や環境がなければ、“お迎え”のために退職を余儀なくされる。就学したばかりの
子が環境変化によって体調を崩しがちになり、その看護で辞めざるを得ないケースもある。

+++++++++

 特に不況から就労に向かう女性が急増すると、保育所だけでなく、学童保育もパンク寸前になっている。一方で、子供の放課後を支える「指導員」の約7割が非正規雇用という状況だ。


誰のための保育事業なのか

 佐藤茜さん(仮名、29歳)は、大学で教員免許を取得したが、卒業後、絵の分野で芸術家を目指してアルバイトをしながらフリーター生活を送っていた。だが、4~5年経つと「このままではいけない」と、職探しを始めた。

 東京都23区内の自治体が民間委託している小学生対象の放課後育成事業の求人を見つけた。委託先の民間会社の求人には正社員登用制度があるという。働きながら保育士の資格を取ろうと決めた。

 2007年4月にアルバイトで採用され、9月に契約社員、12月に正社員に転換した。月給は約18万
円。10人の指導員で300人もの児童を見ていた。2008年度、正社員になったからボーナスが出るはずだったが、「利益が出ない」と夏のボーナスは手取り4万円。冬はゼロだった。勤め先の企業は放課後育成事業で赤字が続くと、自治体との契約期間の満了を待ってすぐさま撤退した。

 思えば正社員になった2カ月後、退職金制度の説明をされた。「その後も、会社側は待遇を悪くして自分から辞めるように仕向けている感じでした」という茜さん。利益が出ないと分かればすぐに撤退する民間企業で、保育の仕事は無理だろうと悟った茜さんは、転職を決めた。しかし、いくら探しても正社員という条件の求人が見つからない。

 やむなく、2009年4月から別の自治体の学童保育で、非常勤指導員として仕事を始めた。年収240万円。1年ごとの契約更新で5年間が更新の上限。ここで保育士の資格をとり、ステップアップにするしかないと覚悟を決めた。

 「就職氷河期世代は強く生きなければいけない。非正社員であっても自治体で働いた経歴は履歴書に書くことができる。現状が厳しくても、うまく利用して生き抜くしかない」

 ただ、茜さんは「いったい、誰のための保育事業なのか」と疑問を感じてもいる。

 「民間委託だろうと公設公営だろうと、子供と接する指導員が非正規雇用ですぐに入れ替わるのでは、子供の情緒が安定しない」(茜さん)。

 全国学童保育連絡協議会の調べでは、指導員は勤続1~3年が半数を占め、年収150万円未満が半数。学童の現場は限界に来ている。そこで働く職員が疲弊するというのは、子供という国の貴重な財産を預かり育む場を荒廃させるに等しい。


子供の未来を守る価値観を

 長年、労働界や女性運動家などから指摘され続けているのは、「保育や介護の職業は、家事の延長としてしか見られず、だから賃金が低いままだった」ということだ。しかし、かつては大黒柱とも
言われた男性の雇用も劣化し、収入が低くなっている中で、そうした意識が賃金引き上げを邪魔しているというなら、それは社会にとって大きな損失となろう。

 保育の現場で働く職員自身が自らの生活を維持し人生設計できることができる環境でなければ、次の道を選択するしかなく、人材不足となり施設運営はできない。となれば、保育所や学童保育などに
子供を預けられるからこそ就業継続する保護者の雇用も奪ってしまう。

 そして、肝心なのは、遅い時間まで預けることなく仕事と子育てを両立できるワーク・ライフ・バランスの実現だ。妊娠期や産後の子育て負担が女性だけに偏らない就業のあり方も議論しなければ、
「職場流産」はなくならない。

 そうした現実に着目し、国や自治体は、保育のプロとしての待遇改善に務めなければいけない。保育士などが完全に親の代わりになることはなくとも、個々の性格を見極めながら、集団生活を通して
どのように叱り、遊ばせ、学ばせるか人間としての成長を助け指導するのが保育士らの仕事なのだ。

 本来、法制度の支援メニューはたくさんあるはず。しかし、それが機能しないのは、意識の問題も無視できない。それは、施策を運用する時に、個人の価値観が持ち込まれてしまうからではないか。

 ならば、視点を変え、「日本の未来を背負っていく子供」という存在を軸にして、企業や個人、行政、地域などがそれぞれの立場から、働き方や支援のあり方を考え直すことが必要なのではないだろうか。

+++++++++++

 待機児童の解消のために、厳しい自治体の財政の中から保育施設を増やそうとすると、保育士は非正規で雇わざるをえない、という事情もわかるのです。が、そうやって、非正規の保育士をどんどん増やすことがどういう意味を持つのかをよく考えてみなければならないと思います。

 自分の子どもを保育所に預けて働き続けることができる人と、預けられなくて就労継続を断念する人、さらに、自分が非正規で保育を担当することで自分の子どもを育てられない人や産むこと自体を断念せざるをえない人、という3区分がすでにできているということなのでしょうか。

 区分というより、身分という感じがしてきます。

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コメント

えふさん
  詳しい新聞記事の掲載報告をありがとう。非正規の問題もさることながら、正規であってもなぜそんなに賃金が低いのかが問題です。日本は一般にhuman service部門の賃金が低いように思いますがそれでも保育士の賃金はあまりにも低すぎます。保育士の賃金上昇には政府の財政支援だけでなく、本来受益者の(親)の財政負担増加があるべきなのですが、労働市場における女性差別により、勤労女性の財政負担能力が低いことが、受益者負担の増加を難しくさせていると思います。労働市場・雇用における女性差別が女性の育児の機会コストを低くし、そのゆえに母親が職を得る代わりに支払うことのできる保育費用も制限され、結果として保育士の給与も上がらないと考えられるからです。「元凶」は、施設保育が「家庭保育の延長とみなされ、家事育児は経済的に評価されない」という問題ではなく、むしろ労働市場・雇用における女性差別問題一般だと思います。

山口一男さん

 ありがとうございます。

 ご指摘のように、保育士の給与が低すぎる、というのは、おっしゃるとおりです。

 日本では、人間の子どもよりも動物(の子ども)の世話をする人の方が高い給与を払われている、ということに関して、「動物を育てたり世話したりするほうが価値が高いと考えられているんだとしたら、けしからん!」と言うと、「いや、人間の子どもは、動物よりも上等だから、大した技術がなくても、育つんだよ」と答えるという冗談(?)を聞いたことがあります。

 動物に関しては、さまざまな領域の職種がありますが、たとえば、トリマー(毛づくろい技術者?)、各種動物訓練士などでしょうか。

 ただ、いただいたコメントには、2点疑問があります。読み間違いなら教えていただきたいのですが、「保育費を負担するのは子を持つ女性労働者」と読めるのですが、実際の保育費負担は父親も一緒に行っているのではないかと思いますが。

 もう1点は、「元凶」と表現された、最後のくだりのところなのですが。
 私には、いずれも、「女性職」(ピンクカラー)と見なされるものについては、低賃金であると思われるので、その対置の仕方には、やや疑問があります。
 つまり、「女性なら誰でもできる」とみなされやすい職業に、実際に女性が多く集まっており、女性が担っている職業は家計補助なのだから賃金が安くてもよいと解釈されやすく、低賃金のまま維持される、というか。
 「対置」というよりは、分かちがたく結びついているイメージなのですが。
 

えふさん
  男性も保育費用を負担しているはそのとおりですが、多くの夫婦が男女の伝統的性別役割分業をする現状では、保育は女性が仕事時間を減らして(あるいはなくして)自分でするか、保育所に預けるかの2者選択になります。そうすると育児の機会コスト(働かないで自分で保育するために失う給与)は女性の賃金に程度に依存します。男性の給与には依存しません。もっとも家庭における育児労働の価値が夫の給与によって変わると考えるなら(私はそう考えませんが)話は別です。育児の機会コストが高くなれば(女性の賃金が上がれば)女性はより高い保育費用を保育所に支払っても働こうと思うはずです。また仕事で女性により機会が与えられ、仕事に意味が見出せるほど、やはりより高い保育費を払っても働きたいと思うはずです。女性の賃金が低いことや、女性が働きがいのない仕事に就くことは、高い保育費を払って働くインセンティブを減らすと思います。当然それは保育士の給与を下げます。
  また「女性なら誰でもできる」とみなされやすい職業に、実際に女性が多く集まっており、女性が担っている職業は家計補助なのだから賃金が安くてもよいと解釈されやすく、低賃金のまま維持される」ですが、類似の議論は米国のポーラ・イングランドなどにもみられ、実際そういった「女性の仕事」の賃金が低いをいう実証的研究もあります。しかし保育に関しては別の面があります。「誰にでもできる」うんぬんが当てはまるか否かは質の考慮によって変わります。実際「誰にでもできる」程度の保育(例えば最低限の安全と栄養補給を保障するだけで後は何もしない保育)は米国のベビーシッターの賃金に見られるように報酬は大変低くなります。でも「保育の質」は「ピンキリ」です。一般に経済的には「低い質の保育」は「劣等商品」で「高い質の保育」は「優等商品」です。つまり誰でも収入が増え、それを市場で買う経済力があるなら高い質の保育を求め、低い質の保育は求めなくなる傾向があります。この場合、育児の機会コスト(女性の賃金の大きさ)は、高い保育費を払って高い質の保育を求める傾向と大きく関連すると考えられます。だから保育士の給与改善には女性の経済力向上がやはり重要です。さもなくば、公教育のように保育士の給与改善のための政府援助を増やすか、あるいは、家庭内の男女の伝統的分業を崩して、育児の機会費用が男性の給与にも大きく依存するようにさせることが、必要です。でも、後者に実現も男女の経済的機会の平等が実現しないと難しいと思います。やはり「女性の仕事への差別」撤廃でなく、女性の経済活動への機会の不平等全般が問題だと私は思います。これはいわゆる同一価値労働同一賃金を求めるべきか、そうでなく男女の経済的機会の完全平等化を求めるかの戦略的違いを生みます。    

山口一男さん

 詳細なご説明ありがとうございます。

 1点目の疑問については、よくわかりました。保育に対する月額費用と、父母どちらかの月収を比較したときに、一般には父(=男性)>母(=女性)となっている現状では、保育費>女性の月収になるのであれば、女性が離職して、保育費を払う代わりに自分で子どもの保育を担う、という方針になりやすい、ということは、了解しました。
 もし、保育費<女性の月収、であれば、働き続けて、保育園に預ける方向になる、と。
 ただ、待機児童問題が絡むと、預けたくても預けられない順番待ちの人の存在は、どうなるんでしょうか。上の要素に加えて、離職後の再就職できる機会と、その仕事の賃金水準も問題になってきそうです。そうか、そこで、女性全体に対する賃金差別が問題になってきているのですね。

 2点目の「戦略」ですが、保育士の給与水準を上げるためには、まず、女性のほうを上げる必要があるということはわかりました。が、その上がり方は、「保育士の給与<女性の給与」という図式を変えないようにしなければ、1点目の話が成立しなくなるでしょうか。

 男女の経済的機会の完全な平等については、私は賛成なのですが、ただ、雇用機会均等法のような法律を知っていると、実効性に疑問を抱かざるを得ず、日本の女性労働関係の人たちも、同様の疑いというか、期待しない感じを持っているような気がします。
 間接差別の限定列挙も記憶に新しいところですし。
 完全な平等というもののイメージがうまくつかめないのかもしれません。
 

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