リーダーシップについて、考えさせられます。
リーダーは自然体 無理せず、飾らず、ありのまま (光文社新書) [新書]
増田 弥生 (著), 金井 壽宏 (著)
神よ、
変えることのできるものについて、
それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。
変えることのできないものについては、
それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。
そして、
変えることのできるものと、変えることのできないものとを、
識別する知恵を与えたまえ。
上の詩(?)は、23ページに書かれてありました。なかなか含蓄のあるお言葉です。「ラインホールド・ニーバーの祈り」だそうです。
朝日新聞で書評がありましたので(ここ)、関心を持ちました。
「水道の蛇口を売るようなことはしたくない」という姿勢が素敵ですね。「水道の蛇口売り」の喩え、この人(=私)は知りませんでしたが、水道のシステムが素晴らしいと思っても、蛇口だけを持ってきてどこかに取り付けてもダメだというのは、おっしゃるとおりで、でも、そういう現象が見られるからこその、自戒なのでしょうね。
最近、なかなか楽しみの読書をするイトマガないのですが、それでも、久々におもしろい読書ができました。と言っても、内容はビジネスに役立つようなものでもありますので、人によっては、仕事のためにお読みになる方もいらっしゃるかもしれませんが。
本書は、タイトルのとおり、リーダーシップというものを自然体で実践されてこられた増田弥生さんという方の職歴やリーダーシップに対する考え方を、対談の形式で引き出したものです。
金井さんは、企業の人事に関する専門家(経営学者)として有名な方のようですが、章ごとにまとめを書かれたりしております。
金井さんは、増田さんという非常にすばらしい経験をしながら自然体に見える女性をなんとか本にしようとして、お忙しくてご自身で執筆するのが難しい事情を乗り越えるために、インタビューを繰り返すことで、本書のようなおもしろい本を完成させることに成功されました。
増田さんは、30代前半でリーバイ・ストラウスという会社に転職し、その後も外資系の会社(ナイキ)に転職し、ヒューマン・リソース(HR)という分野で業績を上げてこられた方です。
キャリアを積み重ねようとすると、仕事をしない時期を空白期間と解釈し、非常に不安になるのが一般的な感覚なのかと思いますが、増田さんは、3年間どこの組織にも所属しない期間があったり、それを楽しんでおられたりするのです。不思議な人です。
リーダーシップは、学んでばかりでは身に付かない。実践してみることが大切、だそうです。筋トレと同じ、と表現されておりますが、そのとおりですね。筋トレの本だけを読んでも、筋肉はつかないのですから。ま、筋トレをしても、なかなか筋肉がつきにくい体質の人もいますけどね。
本書全体を通して、増田さんが、所属する組織に自分を合わせようとするのではなく、そのままで居ることが組織にとってプラスの効用をもたらす事を信じて仕事に打ち込んでこられたことがよくわかります。
こういうのを、ダイバーシティというのではないでしょうか。
増田さんもすばらしいですが、こういう方を組織に受け入れることで、さらなる発展ができると考えることのできるリーバイスやナイキという企業の考え方がすごいと思いました。
業績がよいからそういう余裕がある、と解釈することも可能かもしれませんが、逆に、そういう発想で仕事をしてきたから現在の世界のトップ企業の地位を得て、業績も上げ続けていられる、のではないかと思いました。
飛躍するかもしれませんが、現在、いろいろある企業のうち、どういう発想で人材を捉えているのかを見てみれば、この先、発展していくのか、衰退していくのかがわかるのではないかとも思いました。
異質性を歓迎する組織なのか、同質性を求める組織なのか、そこが分かれ目なんでしょうかねぇ。
みなさまの職場は、どっちですか?
以下、増田さんと金井さんの興味深いやりとりのいくつかをご紹介しておきます。きっと、前後の文脈も気になるかと思いますが、そういう方は、ぜひ本書を全部読んでみてください。
金井:「違いが財産」ということですね。ハース会長の言葉をきっかけに増田さんが自分の存在意義として見出した「日本人らしさ」も、そこにかかわってくるのではありませんか。世間には、日本人らしさを消すことがグローバルだと思い込んでいる人もいるようですが。
増田:人は誰でも、生まれた場所や育った環境の影響を受けて成長します。私たちの中に日本人らしさがあるのは当然で、それが出ないのはかえっておかしいと思います。
多国籍の役員だtちがいる企業の人材プールに日本人がなかなか入ってこない理由の一つは、「リーダーシップ・アイデンティティ」が欠如しているからだとよく言われます。リーダーシップ・アイデンティティとは、個人がリーダーシップを発揮する際にベースとなるアイデンティティであり、自分は誰なのか、自分が出すインパクトは何なのかがわかっていて、なおかつそれを言語化でき、出したインパクトについて責任がもてるということです。
日本人のリーダーシップ・アイデンティティには日本人らしさも含まれてしかるべきであって、そこが欠けていると、あるがままの自分を受け入れられません。自分を受け入れられない人は、他者も受け入れられないため、多様な価値観が重んじられる組織ではうまくなっていきにくくなります。(195頁)
増田:コミュニケーションとは、自分の思いが相手に正確に伝わり、それが相手の具体的な行動につながって、ようやく完結するものだと私は考えています。「これをやってよ」と言うだけでは、コミュニケーションではなく伝言です。相手の行動がゴールだとしたら、自分の意図を相手の腹に落ちる形で発信しなければなりません。こうした言語化の力がないと、組織はリードできません。(198頁)
増田:リーダーシップを身につけ成長していくためには、今の自分をできるだけ正確に知る「自己理解」と、その自分を受け入れる「自己受容」が欠かせないと私は思っています。この二つがうまくできないと、リーダーとして成長していくのはかなり難しくなります。なぜなら学習の成果(成長度合い)は本人の自覚の大きさに比例するからです。(220頁)
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