七人の敵がいる、ので、大変です、小学生のお母さん。
『七人の敵がいる』加納朋子
最近、いくつかの書評を読んだのです。それで、おもしろそうだと思いました。
内容は、小学生の子どもをもつフルタイム職の女性が、PTA活動その他の子どもにかかわるいろいろな義務について、驚き怒りを感じつつも闘争的に対処していく、痛快PTA小説というか、そんな感じですね。
あ、でも、あとがきで書いておられますが、決して、作者はPTAとか教育とかについては、批判したいほどの持論があるわけでもないし、それぞれの活動にいろいろな立場で(専業主婦も兼業主婦も男性も)かかわっておられる方を軽視しているわけでもないのだそうです。
これは、7月21日付日経新聞で発見したものです。
加納さんは、こういう小説ではないジャンルで有名のようです。他の作品も気になりますが。
本書は・・・
全7章なんです。
構成は、
第1章 女は女の敵である
第2章 義母義家族は敵である
第3章 男もたいがい、敵である
第4章 当然夫も敵である
第5章 我が子だろうが敵になる
第6章 先生が敵である
第7章 会長様は敵である
てな具合で、本当に七人の敵について、書いておられます。
もともと、(男性が)仕事をすれば、七人の敵がいる、という言い方をもじったものなのでしょうが、「敵」かどうかは別として、フルタイム就業をしつつ小学生の子どもをもつのは、本当に大変だということがよくわかりました。
基本的には、教育費の公費負担が少ないために、親がボランティアでやらなければならない「仕事」がとても多いこと、そういうシステムでなんとかやってきているというところに、問題があると思いました。というのも、おそらく、このシステムができあがった頃、以前は母である女性が家に居ることを前提にして、諸活動にかかわることができると思われており、実際にも可能だったのかもしれませんが、今では、その頃とは相当かわってしまっているにもかかわらず、システムそのものは、変わっていないからです。
それだけでなく、「子どものために」が疑いのない大義名分として多大な効果を持つという現実。これって、まだまだ続いているのでしょうか。
「子どものためなら、母親は仕事を辞めて当然」「子どもに問題がある家庭は、母親が働いている」「お母さんが働いていると、子どもがかわいそう」って、どうして、母親を責めるような言葉ばかりあるんでしょうかねぇ。
一度や二度ならともかく、子どもが大きくなるまでの20年近くも、そういうことを折に触れて言われるうちに、だんだんくじけて辞めてしまうのも、わからんではないです。
特に、子どもに怪我とか、何か重大なことが起こって、そのときに、たまたま仕事で子どもと一緒にいられなかった、などという経験は、母であり働く女性である人には、打ちのめされることなんでしょうねぇ。
自分のことだけを悪く言われるならいいけど、子どもがいろいろ言われるのは、おそらく、ずっとたまらない気持ちになると思われます。
しんどいことです。
悲惨だな、と思うのは、責められる女性(母親)だけでなく、責める女性も母親であることと、もし、彼女に何かあれば、すぐに責められる側にもなれば、自分で自分を責めることを、おそらく、きっと、なさるだろうと思うからです。
子どもがかわいいと思うことと、必要以上の重圧や自責感を持たずに、周囲からも責められることなく温かく見守られて過ごすことは、難しいのでしょうかね。
児童相談所の虐待相談には、追い詰められて切羽詰まった母親から「虐待しているんじゃないか」「虐待するんじゃないか」というような相談も多いといいます。
苦しいことだな、と思います。
それを受け止めるだけの余裕が、配偶者にも地域にも社会にもないとすれば、救いがありません。
小説に戻って・・・。
ブルトーザーとの異名を持つ小学生の子どもを持ちフルタイム勤務の編集者である主人公陽子は、では、どうしたか。
陽子は、うっ屈したり一人で自分を責めたりせずに、堂々と外向きに闘いを挑んでいきます。
そのために、不要なトラブルも招くのですが、でも、読んでいると痛快なんです。
言わなくても察してほしい、という日本では比較的よくあるコミュニケーションを認めないのです。
そんな陽子が、七人の敵と対峙しつつ繰り広げる話の顛末は・・・?
それは、ご自分で確かめてください。
今では、兼業主婦よりも専業主婦のほうが子育ての心理的負担感が大きいとかも言われるようになってきました。
子どものことを、何でも母親のせいにするのは、もうやめたほうがいいですよね。
やや小説の主題ともずれてきたように思いますので、このへんで。
加納さんの別のジャンルの作品も読んでみたいです。
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えふさん
以前のベネッセの子供のいる母親の国際比較調査結果ですが、(ストレスで)「つい、子供に当たってしまうのではないかと自分を心配する」母親は、日本だけに高い割合で見られ、欧米だけでなく、中国や韓国にも全くみられないのです。加納さんの描いている状況は、おそらく日本特有の物です。とすると、どうして日本は子供を持つ母親にばかり負担が行く仕組みができあがっているのか、それをどう変えるべきか、考えるべきなのだと思います。
投稿: 山口一男 | 2010年7月27日 (火) 10時23分
山口一男さん
ありがとうございます。
東アジアでも、日本の他では見られないのですか。そうだとすれば、おっしゃるように、どうして、日本に特有に見られるのかが知りたいです。自他共に(女性本人も、周囲の人も)要求水準が高いのでしょうが、とても抑圧的に働いている感じです。
フランスの出産事情を書いた本でも、「フランスでは、子どもをもつ女性は、何も諦める必要はない」(趣旨)と書いてあって、子どものために、多くのことを諦めなければならない日本との違いを強調されていた記憶があります。ちょっと薄れていますが、記憶は。
その辺りのしくみが変われば、もっと、気楽に子どもをもつ決定ができ、その後も、いろいろをうまくバランスをとりつつ継続していけるように、なるかもしれませんし。
何を調べればわかるのかがよくわかりませんが。主婦の歴史とか、国際比較研究などを見ればいいんでしょうか。
投稿: えふ | 2010年7月27日 (火) 22時52分
えふさん
> 何を調べればわかるのかがよくわかりませんが主婦の歴史とか、国際比較研究などを見ればいいんでしょうか。
難問でよく分りません。感じとしては、日本はまだ生き方の多様性に肯定的がなく、大昔の良妻賢母とは違う形であるにせよ、未だよい母親、よき妻というものを一元的基準で測って競いあったりすることにもありそうな気がします。時間が限られてくると子育てまでがマニュアル化するので、余計そうなります。これは男性にもいえて、やはり働き方や生き方にももっと多様性があってよいと思うのですが。もちろん個人の問題である以上に社会の問題なのかもしれません。消費の世界だけは多様化したみたいですが。
でもなぜ他の国で「子どもに当りそう」なほどストレスをためている母親がはるかに少ないのかは分らない面も多いです。韓国など「教育ママ熱」日本より高いのでストレスもあるはずですが、ベネッセ調査では日本と同様の問題は見られなかったようです。アメリカの場合は母親が子どもに手をかける時間がはるかに少ないので、まあ分りますが。
投稿: 山口一男 | 2010年7月27日 (火) 23時25分
山口一男さん
「よい○○」の基準を多様化していくことも、ひとつかもしれません。もっと開き直って、「よい○○」を目指さない生き方も選択肢に入れてもいいかもしれませんが。
国際比較では、子どももそうでしたが、自己肯定感が日本は低いですよね。何なんでしょうかね。
韓国がストレスが低いのは、たしかに謎です。韓国料理の品数の多さなどを見ると、主婦的役割は重圧のように思うのに・・・。
むしろ、ストレスを強く受けることが、母としての自己肯定につながり、満足度を高めるというような、メカニズムがあるかもしれないとか、疑ってしまいますが。疑問をもつ余地もないほどの、強い強い規範があるとか?
ともかく、この不思議を研究している方などが、仮説を発表なさっていれば、それを見てみたいものですね。母性研究や育児不安の国際比較などであれば、ありそうかも。
この論文の最後に韓国研究の文献リストがありました。中身がわかりませんが、興味深いですので、ここに記録しておきます。
http://www.kuis.ac.jp/icci/publications/pj_results/eastasia2005/Korea.pdf
中国や韓国のパネル調査も興味深いです。http://www.igs.ocha.ac.jp/f-gens/about/overseas/0802panelu.html
投稿: えふ | 2010年7月28日 (水) 23時37分
えふさん
文献の紹介、ありがとう。
投稿: 山口一男 | 2010年7月29日 (木) 09時56分