具体的な改革案がおもしろかったです。
『官僚の責任』 古賀茂明著 PHP研究所 (2011/7/16)
すごく売れているらしいので、すでにいろいろな書評が出ているのかもしれません。
この人(=私)は、官僚制のしくみや、今の霞が関の状況を知るためのところは、あまり書きません。それは、本書をお読みになるか、ネット書店などでのユーザーの書評をご覧ください。
この人がおもしろいと思ったのは、規制を緩和して、すでにすごく保護されているところの保護を減らすという主張の具体的なところでした。
民主党の政策方針を、「ちょっとかわいそうな人をすべて救う」と表現されているところなどは、とてもわかりやすいです。
で、今、ちょっとかわいそうな人は日本全体の半分くらいおられて、半分もいる人たちをすべて救おうとすると、財政が持たないので、本当にかわいそうな人をきちんと救済していく、という方向は、わかりやすく思いました。
後半、局付(=暇)になられてから、2週間の全国出張で訪ね歩いた先々での経営者の話なども、興味深く読みました。
ある部品メーカーでは、力のない中小企業が淘汰されることで、実力のあるところだけが生き残り、その業界が国際競争力を持ちつつ伸びて行くのに、実力のない企業までを救済することで、その業界全体を滅ぼす方向に導いてしまう政策を批判されて、とても納得なさる話は、この人も納得するものでした。
「汗水=美徳」は世界の非常識
いまや、中国人が「死ぬほど働けといったやり方ではもうダメだ」と考えているくらいなのだ。私の知り合いの中国人経営者が言っていた。
われわれは日本人に絶対勝てる。なぜなら、日本の経営者は汗水流して働くことを貴重だと考えている。口先だけではなくて、ほんとうに信じているからだ」
彼が言うには、日本の大企業の経営者は、その場で自分で決められる案件でも、必ず「持ち帰って検討します」と答えるという。そして、みんなで寄り集まって夜中まで会議をして、みんながヘトヘトになったところでようやく結論が出る。対して中国人は即断即決だ。
「これではスピードでまったく太刀打ちできないだろう」
彼は指摘し、こう続けた。
「中国人経営者も、労働者に対して『汗水流してまじめに働くことは尊い』と口では言う。けれども、じつはそんなことはこれっぽっちも信じていない。むしろ、汗水流して働くやつはバカだと思っている。真の経営者は、頭を使って働かないで儲ける。そして、自分たちだけでなく、工場で働く労働者をいかにラクさえてあげるかを考えるのが、真の経営者なのだ」
これが真実かどうかはわからない。しかし、彼は断言した。
「日本人経営者が、『中国人はまだこんなバカげたことをやっているのか。私たちは頭を使って、中国人には思いつかないことをやる』と考えているなら、まだわれわれはかなわない。けれども、汗水流して働くことが美徳だといまだに心から信じているとすれば、もはや成長はない。われわれは絶対に勝てる」
そして、最後につけくわえた。
「このままいけば日本人はみな、いまの中国人と同じレベルまで生活を切り下げるしかありませんね」
この中国人経営者の言葉が示しているのは、なるべく無駄な労力を使わず、頭を使って効率的に利益を得なければ、日本が国際競争から取り残されるのは必至ということである。いくら高い技術力と勤勉な労働力があろうと、経営者に経営能力が欠けていれば宝の持ち腐れになるということである。
そもそも日本の10倍以上の人口をもつ中国と労働力で争っても、勝てるわけがない。まして日本は年々、人口が減少している。
(194-196ページ)
農業についても、日本の農業を振興するために、海外から保護するような高い障壁を設けることが、実は、ダメ農家を淘汰することを妨げ、実力がありやる気もある農業参入希望者を参入させにくくし、国際競争力を持たない農業を作り出してしまっているというのも、納得。
この人においては、自然に思えていた退職後の高齢者に対する年金受給についても、80歳以上に支給することにして、60歳とか65歳で全員に支給するような思想をやめる提言なども、目からうろこでした。
働けるのに、全員に15年もお金を支給することの理屈が、平均寿命が格段に伸びた現在においては、もう通らないかもしれません。
で、働けない、かつ、資産もない方々には、年齢ではなく、若者だとしても、生活費を支給できるような社会保障のしくみにすればいいのでは、というのも、たしかに、その通りだと思いました。
今、60歳とか65歳になると、年金が支給されるので、現役のときには仕事ばっかりしていた方々も、余暇を満喫しようとなさるのかもしれません。
もし、80歳にならないと年金が支給されないのであれば、人生のほとんどを仕事をしつつ暮らしていくことになりますから、もっと若いうちから、仕事ばかりの生活ではなくなる可能性もあります。
つまり、ワーク・ライフ・バランスをずっと成り立たせるよう努力しないと、本当に仕事をしてばかりの人生になり、いわゆる「第2の人生」などというものは、なくなってしまうからです。
いくつか、疑問に思った点もあります。
まず、官僚っていうのは、いわゆるキャリアと呼ばれる人たち限定なのかどうか。しかし、キャリア官僚という言い方もするわけで、官僚=国家公務員、であれば、天下りできるほど出世するのはⅠ種の方の一握りでしょうから、そこを明確にする必要があるのではないでしょうか。
ノンキャリ(=ノンキャリア、Ⅱ種やⅢ種採用の方など)の方々においては、全く無縁な話ですから、それらを明確にしないまま、こんなに恵まれているんですよ、と言っているかに受け取られてしまうと、不要な公務員バッシングを招いてしまうような気がして、やや心配なのです。
それと、中央省庁でも、天下り先のない省とかもあると思うのです。
ひとつひとつの事業予算が経産省ほど大きくないところもあるでしょう。
それらについても、イッショクタになっているように思われると、やはり、公務員バッシングにつながる不要な誤解を招く恐れがあるのではないかと思いました。
まぁ、読み手においても、古賀さんの経歴や書かれている事を注意深く読めば、これらのことが誤解であるとか、そんなに大雑把に全部を批判されているものではないことはわかるのかもしれませんが。
そのような表現はなさっていなかったと思いますが、ダイバーシティ・マネジメントやダイバーシティ推進、あと、女性割合を増やす、つまり、男女共同参画の推進なども、本書の中では言及されており、そこは好感が持てました。
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