「余計なお世話」の大切さについて考える
『生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある』
2013年7月に出版されてから、3年も経っているのに、この人(=私)は最近まで、本書の存在を知りませんでした。
先に見つけた下の本を読んでみると、元となっているこちらを読まずにはおれなくなり、そして、読んだのでした。
本書が教えることは、いろいろありますが、自殺希少地域をフィールドワークして見つけた5つの自殺予防因子は帯にも書いてあるので、以下で紹介します。
・いろんな人がいてもよい、いろんな人がいたほうがよい。
・人物本位主義をつらぬく
・どうせ自分なんて、と考えない
・「病」は市に出せ
・ゆるやかにつながる
このことがどういうことなのか、また、これらのことが、どのように自殺を予防しているのかについては、本書を読んでください。
読んで感じたことを少しだけ書いておきます。
田舎で育ったこの人は、近所づきあいの煩わしさとか、数件先までなら、数代先まで知っているというプライバシーのなさ、そして、〇〇さんのところの〇〇さんという素性がしっかりわかっていることの面倒くささなどがあんまり好きではありませんでした。
おとなになると、地理的な意味での田舎だけではなく、職場コミュニティでもそういう「田舎さ」というのはあって、これは、大都市、都心のオフィスでも変わらないことを知るのですが。
終身雇用が中心である職場では、数十年のつきあいがあるので、ちょっとした田舎と同じ性質があります。つまり、「あいつの新卒の頃から知っている」みたいなことですね。
だから、その場限りのつきあいではないため、言いたいことを言わずに耐えたりしつつ、数十年をつきあっていくのは、なかなか大変だなと思っておりました。
そんな、人間関係のわずらわしさについては、自殺予防にとっては、人間関係の薄さや孤立が要因のひとつになっているとされていることもあり、コミュニティの”絆”の重要性が指摘されてきているのですが、一口で表現される”絆”についても、もう少し区分けして、丁寧に確認していく作業がなされています。
相談にかかわる業界では、早期に相談することが早期解決に結びつくことは常識になっているので、「ひとりで悩まず相談してください」と呼びかけることが定石です。
が、「耐える」ことや「我慢する」こと、「自力解決」が美徳とされる社会常識の中に生きていると、気軽に相談してと言われても、そうそう簡単に相談などできることではありません。
かくいうこの人も、相談を呼びかける仕事をしていた時も、その点にひっかかりを感じており、また、相談してくる人たちも、「もう少し早目にいえばいいのに」と思うような事態になってから、やっとの思いで相談してくることも、ままあることだと知っています。
そういう相談への敷居の高さを、軽く飛び越えて、この海部町というコミュニティはあるようなのです。噂話は結構あるし、すぐに広まるし、プライバシーの概念もあんまりなさそうだし、それを聞くと、そっとしておいてほしいこの人は、あんまり好きじゃないなと思います。
でも、いつまでも関心を持ち続けず、噂はすぐに廃り、一度の失敗はすぐに許され、問題が起きることを前提に考えるという特有の性質が、ここでは、自殺するまでひとりで抱える方向に行くのをとどめているようです。
おもしろい発見だと思いますし、着眼だけでなく、それを実行に移し成功するまでの岡さんの研究者としての尽力にも、学ぶことは多いです。
『その島のひとたちは、ひとの話をきかない――精神科医、「自殺希少地域」を行く』
実は、先に読んだのはこちらなのです。
それで、こちらを先に紹介しようかと思っていたのですが、できませんでした。
なぜかというと、時間がなかったとかいう理由ではなくて、なんというか、その理由を自分なりに把握するのにも時間がかかったのですが、本書が独特なのです。それが理由なのではないかと思います。
何が独特なのかを説明するのも、難しいのです。
たとえば、文体が独特なのです。でも、それだけではないと思います。
じゃあ、何か・・・。
そういうことを考えつつ、やはり、先の本を読んでみるしかないような気がしてきました。
こちらの本でも、その本が常に参照先になっていますし、それを読めば、こちらの独特さを説明する語彙が見つけられるかもしれないと思いました。
それで、上の本を読んだのですが、本書のほうで気になっていた、海部町は男女が平等であるとの記述を裏付ける研究結果は、岡さんの本からは見つけられませんでした。これは、森川さんが現地を訪問して感じたオリジナルな感想のようです。
また、支援の仕方がうまく、コミュニケーションに慣れているとの記述も、岡さんの本には書かれていませんでした。これも、具体的な対話を紹介することで、森川さんが説明しているのですが、支援を必要とする人に、「どうですか?」と聞くと、「大丈夫」と答えてしまうので、聞かずに手を差し伸べたり、物をあげたりといった海部町の人々の助け方は、森川さんが訪問して接したことから出てきたこととわかりました。
支援者であることの基本として、支援対象者の意志の尊重ということが基本として言われているわけですが、明らかに人の助けが要る人が、必ずしも、それを自覚できているとは限らないこと、自分の状況を客観的に判断する能力が低下している場合があることなどを挙げ、遠慮するまでもなく、ささっと助けてしまうやり方に、海部町の独特な「対話力」を見ているようでした。
やはり、岡さんの著書を読んでから、こちらを読むほうが、理解が深くなりますし、どこまでが岡さんの発見で、どこからが、森川さんの体感を踏まえた考察なのかがわかりやすくなります。
そんなわけで、自殺に追い込まれるほどの大変な困難に限らず、ちょっとした困難を地域で解決していくことの重要性や方法のヒントについて、いろいろ考えさせられました。
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