『告白 岐阜・黒川 満蒙開拓団73年の記録』
『告白 岐阜・黒川 満蒙開拓団73年の記録』
川 恵実 (著), NHK ETV特集取材班 (著), 田中佳奈 (写真), 2020年3月
本書は、2017年8月の放映されたNHK ETV特集「告白~満蒙開拓団の女たち~」を制作したディレクターの、2016年8月から始まる取材をもとに構成されたものである。
番組では伝えきれなかったこと、その前後の出来事、新しい証言も加えられている。
伝えずには逝かれないという決意を感じさせるご本人のお話や、その息子たち世代の男性たち、慰霊祭を続ける黒川分村遺族会会長のタブーを破って、犠牲になった女性たちのことに触れる発言を始めた理由などが記述されている。
4代目遺族会会長の藤井宏之さんの言葉。
ーー その慰霊祭の慰霊の言葉の中ではじめて、接待のことについて話をされたとうかがいました。それはどうしてだったのですか?
「私が遺族会の会長になって、安江善子さんから、このことについて聞きまして、慰霊祭のときの慰霊の言葉を読み上げるときは必ずそのことは言うようにしています。あの、乙女の碑があるように、犠牲となって亡くなられた方々のおかげで、きょうまで我々が生活させてもらっているという趣旨で、私は言っているつもりです。
自分としては、それは伝えたいこととして伝えている。
亡くなられた方々の供養だねと思って言葉にして言っているという感じでしょうか……」
この藤井会長が発起人となり、乙女の碑には、碑文が建設された。
「接待」という名で、ソ連兵に差し出された15人のひとり安江善子さんの息子である泉さんの言葉は、重い。
「要するに、誰か人身御供みたいに行かなければいけないわけですね。そのときに、誰が行くのか、そのときにやっぱり親のいない子どもたち、バックボーンのない子たち。だから一番弱い家族の娘が行かされているわけですね。
親がいて、親がしっかりしているところは行かなくてもよかった。だから、もう、なんというんかな、誰が悪いというわけでもないけれど、その満州の開拓団の中で、やっぱり力を持っている人は自分たちを守ろうとするし、その中で犠牲になる人も当然いるわけですよね。
やっぱりそうした思いというのは、同じ開拓団の中でもぜんぜん違うと思うんですけれども、そういうことはたぶん、うちのおふくろたちは経験してきているから、どこまで話をしているのかはちょっとわからないですけれども……、そういう状況になれば、追い込まれてしまう。」
満蒙開拓団として、かの地に渡り、集団自決で生きて帰らなかった人たちと、なんとか生きて帰った人たち。黒川の女性たちの声は碑文に刻まれたが、同様の経験をして、聞かれなかった女性たちのことも気になる。
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